研究課題
基盤研究(B)
本研究では,新たな方法でミリメートル測距精度を達成する SLR(衛星レーザ測距)装置を設計・開発・実証する.すなわち① 小型レーザ装置を活用し独自の計測手法を組み込んだ身軽で低価格な測距システム基幹部の構築,② 将来の南極等への配置や観測局稠密化を見越して地球の形・重力・回転や人工衛星軌道決定のシミュレーション解析,③ 次世代世界標準システムとしての国内外への発信,を一貫して行い観測局数の飛躍的増加を促す.この新装置を広く展開できれば,SLR 本来の性能を限界まで発揮させ,測地観測網の稠密化・高精度化に大きな貢献を果たすことができる.
本研究は,容易に入手可能かつ低価格なコンポーネントにより小型の SLR(衛星レーザ測距)装置を開発・実証し,世界における SLR の位置づけにインパクトを与えようとするものである.4 年計画の 3 年目にあたる 2022 年度においては,各コンポーネントを組み合わせて1つのシステムにまで組み上げた.国立極地研究所の低温室では,架台・イベントタイマー・レーザが低温に耐えるかどうかの試験も行った.測距装置としての実験は,室内での測距試験に続き,屋外での地上ターゲット測距も成功している.現時点では衛星への測距までには至っていないが,国立極地研究所や海上保安庁などにおける組み上げ試験において衛星を正確に追尾できることまでは確認している.特に,海上保安庁下里水路観測所における試験においては,海上保安庁の SLR 装置と同時かつ同じ衛星に対してレーザを発射することができた.各コンポーネントの能力・安定度も着実に上がっており,システム全体として完成近づいている.研究代表者・研究分担者に加え,研究協力者や関係機関の方々まで含め,Slack から Discord に移して相互の意思疎通は頻繁にとって,対面・オンラインを交えて研究の議論を重ねている.また,共同研究先である宇宙航空研究開発機構にて整備された新たな SLR 局(つくば市)の品質評価解析を実施し,予備データながら 1 cm 程度の精度でグローバル軌道決定に使えることを確認した.この解析シーケンスは本研究において開発中の SLR 装置の予備解析にも使えるものである.
2: おおむね順調に進展している
2022年度においては,これまで整備してきた各コンポーネントを組み合わせる作業が主となった.たとえば,望遠鏡・カメラ・検出器などの光学系と追尾のための架台を,治具を作るなどしてまずはハードウェア的に結合させ,さらにはカメラ・検出器からの出力からアライメントを行うためのシーケンスを確立し,さらにそれらすべてを制御するためのソフトウェアを開発した.ユーザが触れる部分は,ウェブブラウザから操作できるなど汎用性が高くユーザフレンドリな形にした.これまで主に使ってきた緑色のパルスレーザに加えて,赤外波長のパルスレーザを購入しその性能まで確認している.また,もっともデータ量が大きくなるイベントタイマーとの通信については,できるだけ処理が減るようなアルゴリズムを開発している.
4 年計画の 4 年目に当たる 2023 年度においては,全コンポーネントを組み上げた状態での試験を重点的に実施する.国立極地研究所や海上保安庁下里水路観測所へシステム一式を持ち込んでの試験を複数回実施する.各試験においては,運用を踏まえて反省点をまとめて,改良を重ねることで,効率や精度の向上を続け,低軌道の衛星への測距に臨みたい.衛星測距に成功できれば,そのデータの品質評価を実施し,測地学的なインパクトについても考察する.これまで1つの架台の上に載せてきたシステムを,たとえば送信部と受信部を分けて複数の架台に載せる形での試験も計画する.国内外での発表を積極的に行うほか,これまで開発してきた個別の要素を論文としてまとめる.また,国内の下里局・つくば局に加え,海外の SLR 局との協力を新たに模索するほか,SLR 本来の測地用途に加え,どのような新分野に本研究が応用できるかなど,今後の展開に向けて広く探索する.
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すべて 雑誌論文 (28件) (うち国際共著 9件、 査読あり 28件、 オープンアクセス 22件) 学会発表 (52件) (うち国際学会 21件、 招待講演 6件) 備考 (2件)
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