研究課題/領域番号 |
20H02070
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19010:流体工学関連
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
長谷川 浩司 工学院大学, 工学部, 准教授 (90647918)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
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キーワード | 非接触流体マニピュレーション / 音場浮遊法 / 液滴 / Lab-in-a-drop / 混相流 / 非線形ダイナミクス / 混合 / 蒸発 / Lab in a drop / 反応 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、分析化学、生物、医学・創薬分野への音響場を用いた非接触流体マニピュレーションが積極導入され、社会実装を目指した研究が活発化している。本研究では、その実現のための道標となる統合的な現象把握と物理解明に取り組むとともに、浮遊液滴の安定浮遊・輸送・合体・混合・反応・蒸発に至る、非接触流体マニピュレーションを世界で初めて一気通貫で実現することを目指す。すなわち、既存の単一操作のみならず、連続的な複数プロセス操作を実装することで、世界に先駆けてLab in a drop(液滴内で混合や反応などの全操作を完結する)の実現に向けた音響場による非接触流体マニピュレーションの概念実証を目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、音場浮遊液滴に生じる流動、熱・物質輸送現象ならびに浮遊液滴の安定制御条件の解明のために現象の支配的パラメータを同定し、複数プロセスの連続的操作を可能とすることを目指す。すなわち、Lab-in-a-dropの実現に向けた音響場による非接触流体マニピュレーションの概念実証を行うことを目的とする。 本年度は、非接触マニピュレーションの実現の鍵となる「異種液滴を用いた浮遊~蒸発」のプロセス実証と統合に取り組んだ。異種流体の組み合わせの一例として、水、エタノール、アニス油を用いたOuzo効果を発現する系で実証した。水、エタノール、アニス油の3成分液滴では、エタノール成分の蒸発とともにOuzo現象と呼ばれる自然乳化現象が生じることが知られているものの、その多くは固体基板上での現象観察が主で、音響場で安定浮遊させた状態で現象観察したケースは皆無である。今回、各種成分濃度をパラメータに、浮遊させた3成分液滴でのOuzo現象の発現タイミングや現象の継続時間を系統的に明らかにした。加えて、Ouzo液滴を浮遊させた場合に、エタノール成分の蒸発が進展することで自然乳化することのみならず、やがて油水分離が生じることで浮遊液滴内での液液相分離を実現可能であることが明らかとなった。これは液滴のダイナミクスを明らかにする意味で学術的価値があると同時に、Lab-in-a-dropの実現に向けた音響場による非接触流体マニピュレーションの応用可能性を示唆するものであると考えられる。 得られた成果については、2022年度は3件の学会発表を行い、1報の原著論文および1報の総説論文が出版となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で対象とする、①「各種プロセスの安定制御条件の検証」、②「同種液滴を用いた「浮遊~蒸発」のプロセス統合」、③「異種液滴を用いた「浮遊~蒸発」のプロセス実証と統合」、④「非接触流体マニピュレーションの数値解析」について、これまでに当初計画通りに①~③を遂行している。 ①については、これまでに単成分や多成分系液滴のみならず、塩化ナトリウム水溶液のような水分の蒸発後に析出した溶質試料の浮遊および安定保持条件を特定した。特に大粒径液滴の場合には最大1時間程度の液滴の安定保持に成功している。 ②については、非接触マニピュレーションの核心的操作となる液滴の浮遊から蒸発に至るプロセスも同種液滴に対しては統合できることを確認した。特に、「浮遊~混合」プロセスについては、新規可視化手法によって液滴の合体から混合に至る過程を高時空間分解能で計測することに成功している。また蒸発プロセスに対しては、懸濁液滴界面付近での拡散過程を考慮することで蒸発モデルの修正を行った。その結果、懸濁液滴の蒸発過程を良好に予測可能であることを実証した。 ③については、上述のように水、エタノール、アニス油の3成分液滴を対象として異種液滴を用いた浮遊~蒸発のプロセスも実証可能であることを示した。特に、浮遊させた状態でのOuzo現象の観察事例は皆無であったことに対して、本研究では各種成分濃度をパラメータに、浮遊させた3成分液滴でのOuzo現象の発現タイミングや現象の継続時間を系統的に明らかにしている。さらに、異種流体を対象とすることで、Lab-in-a-dropの実現に向けた音響場による非接触流体マニピュレーションの応用としての液滴内での液液相分離の実現可能性を実証した。 以上より、本研究課題の現在までの達成度は、「おおむね順調に進展している」に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Lab-in-a-dropの実現には、複数の液滴の浮遊・輸送・合体・混合・反応・蒸発といった、液滴の動的な現象を精緻に制御する必要がある。そのため本研究では、①「各種プロセスの安定制御条件の検証」、②「同種液滴を用いた「浮遊~蒸発」のプロセス統合」、③「異種液滴を用いた「浮遊~蒸発」のプロセス実証と統合」、④「非接触流体マニピュレーションの数値解析」の4点を対象として、非接触流体マニピュレーション実現のための概念実証および浮遊液滴に生じる現象の統合的な物理解明に取り組んでいく。 最終年度となる2023年度は、これまでに得られた知見を総動員し、より実際的な非接触流体マニピュレーションの実現可能性を検証する。具体的には2022年度より着手したOuzo液滴を対象に、蒸発によって液滴内の成分濃度を変化させることで任意のタイミングで自然乳化や相分離を発生させることでLab-in-a-dropとしての液滴活用や液滴の界面不安定性を利用した粘性気泡の生成および長時間安定浮遊の実現を目指す。併せて、実験では特定が極めて困難な物理量を推定するための数値解析も継続的に発展させる。具体的には連成する物理現象を数値解析可能なCOMSOL Multiphysicsを駆使することで音響場と流動場の時空間発展を明らかにすることで、液滴界面に生じる圧力分布などの情報を基に実験へフィードバックを試みる。実験と数値解析、数理モデルのいずれも駆使した相補的なアプローチによって、効果的かつ系統的に音響場による非接触流体マニピュレーションの概念実証を行うことを目指す。
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