研究課題/領域番号 |
20H02082
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 陽一 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (80526442)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2020年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
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キーワード | 分子熱工学 / 光アップコンバージョン / 熱力学考究に基づく材料創製 / 結晶成長と分子混合の熱力学 / 三重項励起子の輸送現象 / 熱力学と温度制御に基づく材料創製 / 結晶成長の熱力学と速度論 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題は,現在太陽電池等の光エネルギー変換に利用できない長波長光を,利用可能なより短波長な光に変換する光アップコンバージョン(UC)に関する.この材料では,長波長光を吸収して励起状態を作る「増感分子」と,短波長シフトした光を発する「発光分子」とを分子レベルで安定混合させる必要があり,それが課題となっている.本研究では,分子熱工学の観点から,熱力学および速度論への考究に基づき,安定かつ高効率なUC材料を創製するとともに,その基盤学術の構築を行う.
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研究実績の概要 |
本研究は,太陽電池等で未利用な長波長な光(低エネルギーな光子群)を,利用可能なより短波長な光(より高エネルギーな光子群)に変換する光アップコンバージョン(UC)に関する.今年度は,交付申請書に記載した1番目の研究目的,「応用に適した熱力学的に安定かつ高効率な結晶性UC有機分子材料の創出」について著しい成果を得た.具体的に,本課題における提案着想の実現に成功し,熱力学的に安定かつ前例のない高性能を示す「α固溶体相」のUC有機結晶の創製に成功した.固体UC材料では一般に,光子を吸収する「増感分子」と,そこから励起状態を受け取り励起子として空間を伝播させUCを行う「発光分子」とを分子レベルで均一混合する必要があるが,従来は熱力学安定状態での二種分子のミクロな均一混合ができていなかった.本研究ではこの解決として「混合エントロピー」を二種分子混合の駆動力に用いた.本材料は平衡状態近傍で生成されるため高い結晶性を有し,材料内における励起子拡散長が1μm以上と,従来の固体UC材料より2桁程度長い励起子拡散長を実現した.これにより理論最大効率の32 %(UC量子効率16%),空気中における長時間光照射に対して安定,および,励起の閾値強度が自然太陽光の1/5程度と,前例のない極めて高性能な固体UC材料を創出した.本成果は査読付論文(Materials Horizons, IF: 13.266)に出版され,さらに新聞を含む多くのメディアに掲載された.本成果の過程で,交付申請書に記載した2番目の研究目的,「材料形成の成否を支配する根本要因の解明」も部分的に達成に至った.3番目の研究目的である「UC有機分子結晶中における励起子輸送の特性およびその支配因子の解明」は,その計測システム構築が難航し当初の計画から遅れたが,年度内に構想したシステムの構築を完了することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,「液相からの析出法(ルート1)」による材料創製面では,当初の期待を大きく上回る顕著な成果が得られた.一方,UC有機結晶中における励起子輸送特性を明らかにするための計測システムの構築は当初計画よりやや遅れ,本年度(令和3年度)の末ごろになり,制御プログラムとハードウェアの連携動作確認,信号検出系が期待通り機能していることの確認も含めたシステム構築が完了した.また,「ルート1」と並行して追求している「融液からの多結晶膜生成(ルート2)」についても,材料の作製の方法論をほぼ確立した段階にある.これらの進捗を総合的に考え,現在までの進捗の自己点検評価を「おおむね順調に進展」とした.
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今後の研究の推進方策 |
本年度著しい成果を創出した「液相からの析出法(ルート1)」による材料創製は,ある特定の波長域のUC(黄緑~緑色域から青色域へのUC)を行うものであった.この波長域にも応用は豊富にあるが,本創出技術の応用の適用範囲を拡張させるため,本創出技術により創製される材料の波長域拡張のために,新規な発光分子と増感分子の探索を遂行してゆく.「融液からの多結晶膜生成(ルート2)」は難易度が高いが,その方法論は確立されつつある.その推進の方策として,適切な分子の探索・選択に加え,基板上の濡れ性と温度制御の最適化を進める計画である.励起子輸送特性の計測については,ルート1の成功で長い励起子拡散長をもつ良質な有機結晶UC材料を得たため,その試料を活用して,構築が完了した上記システムを用いて研究を進める計画である.
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