研究課題/領域番号 |
20H02093
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川本 直幸 国立研究開発法人物質・材料研究機構, マテリアル基盤研究センター, 主幹研究員 (70570753)
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研究分担者 |
三留 正則 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, 職名なし (50354410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2020年度: 15,340千円 (直接経費: 11,800千円、間接経費: 3,540千円)
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キーワード | パルス電子線透 / 透過電子顕微鏡法 / 熱輸送計測法 / ナノスケール / 熱拡散率 / パルス電子線 / 透過型電子顕微鏡法 / 熱輸送計測 / 電子線パルス / EELS / 熱電対 / 動的観察 / STAM / 走査透過電子顕微鏡法 / 熱伝導評価 / その場観察 / 温度計測 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、材料やデバイスの構造が、熱を運ぶフォノンの平均自由行程と同等かそれ以下のスケールで制御されており、先端エネルギー材料における熱物性制御や次世代熱・電子デバイスの開発のためには、電子やフォノンの精密な流れをナノスケールで理解する必要性が高まっている。特に、高速に動作するデバイスにおいては、過渡的熱過程の理解が重要であり、ナノスケールの熱輸送現象をより精密に捉えることができる新たな熱輸送評価法が求められている。本研究では、透過型電子顕微鏡法ベースの定常ナノスケール熱分析顕微鏡法が抱える個々の課題を解決し、電子線パルス照射技術を導入した新たなナノスケール熱分析顕微鏡法の開発を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究では電子線パルスを利用したTEM試料の熱計測を計画しており、まず温度計測部周辺の熱容量が小さくなるような先端径が小さい熱電対用微小探針を作製した。ナノ熱電対のゼーベック係数を測定するなど、TEM内でゼーベック計測をするためには、微小熱電対先端部と参照温度となる他端部間に温度差を印加し、熱起電力を計測する必要があり、被測定体の温度を正確に制御しながら尚且つ温度を精密に計測する必要がある。そこで、現有する測温探針TEMホルダーを用いて、冷却時のTEM内部における精密な温度制御と温度測定を行う基盤技術の開発を進めた。 本研究では、補償導線でTEM外部と接続したマクロな熱電対をさらに試料位置に追加し、ペルチェ素子で冷却・加熱した時のTEM内の試料位置付近の温度計測を行った。その結果、-30℃から100℃の温度範囲で冷却加熱することができ、3時間後以降の安定した冷却下では、TEM内でも約0.1℃/hの高い温度安定性を示すことが明らかとなった。 また、本年度は、電子線パルスを生成するための静電偏向器を現有するJEM-3100FEF透過型電子顕微鏡に導入し、来年度からのTEM内熱計測の準備も進めている。静電偏向器の印加電圧を制御することで、ビームブランキング速度を調整できる。今後は、本装置にファンクションジェネレーターとロックインアンプ、さらには専用の測定回路を構築することで、時間分解的なTEM内熱輸送計測法の開発を試みる。 さらに、異なる物質間で熱伝導情報を抽出するためには、照射電流値、試料を構成する物質、さらには試料厚さにより変化する吸熱量を規格化する課題についても進めており、本年度は、モデル試料となるくさび型モデル試料の作製を行い、試料厚さの変化に応じた計測温度の評価も併せて行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでに本グループが開発を進めてきたTEM内定常熱伝導計測法であるSTAM法において、電子線による投入熱量を規格化し熱伝導情報を抽出する画像処理法の開発を目指すため、熱伝導率が既知の標準試料であるサファイア基板をくさび形状に成形したTEM試料を集束イオンビーム(FIB)で作製し、電子線エネルギー損失分光法(EELS)による試料厚さの評価、照射電流値の測定、さらに定常STAM像の取得など着々と実験を進めている。本計測結果を基に来年度は電子線による投入熱量が規格化できるかの検討を進める。 次に、従来相対的な温度変化の評価に留まっていたSTAM法の課題を解決するため、温度計としてのナノ熱電対のゼーベック係数を測定するための準備を進めている。そのためには、TEM内に挿入する試料や熱電対の温度を精密に制御すると同時に計測する必要があり、測温探針TEMホルダーを用いて、冷却時のTEM内部における精密な温度制御と温度測定を行う基盤技術の開発を進めた。その結果、3時間後以降の安定した冷却下では、TEM内でも約0.1℃/hの高い温度安定性を示すことが明らかとなり、今後、ナノ熱電対のゼーベック係数を測定するため環境が整いつつある。 今回、電子線パルス発生装置であるビームブランキングユニットの導入は、昨今のコロナ禍の状況禍で少々遅れたが、年度末に現有するJEM-3100FEFに追加する形で導入できた。今後は、本装置を応用し、ロックインアンプ、信号発生器などを組み合わせた熱輸送計測用の専用回路を構築し、基礎的な実験を中心に着実に実験を進める。 一時期コロナ禍による影響を受けたが、以上のように今後の本格的な実験に備えた実験や装置導入を着実に進めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに測定を行ってきたくさび型試料の試料厚さ・熱伝導情報を含むSTAM像・EELSスペクトルなどの実験結果を基に、TEM内定常熱伝導評価における投入熱量の規格化のための解析法を検討する。 また、ナノ熱電対のゼーベック係数の調査についても、本年度準備を進めてきた測温探針TEMホルダーの安定した温度制御・測定手法を用いて行う予定である。具体的には、電解研磨法で先鋭化した熱電対材料の微小探針をTEM内で接合し、ホルダー外にある補償導線の端部の温度を参照温度である室温(約25℃)として、TEM内の温度計測部を0℃~-30℃での冷却下した時に発電する熱起電力を測定することで、ゼーベック係数の調査を試みる。 来年度からは、今年度導入を進めた電子線パルス生成用ビームブランキングユニットに熱輸送計測用の専用回路の構築を図り、実際に電子線パルス照射時のTEM試料の温度計測を試みる。来年度は、集束イオンビーム(FIB)で薄片化したサファイアなどのモデル試料を先端に支持させた熱電対を作製し、TEM内で照射した電子線パルスによる周期的な熱投入に伴うモデル試料の温度変化の測定を試みる。具体的には、熱電対から少し離れた箇所の一点に照射位置を固定し、ビームブランキングユニットとして働く静電偏向器に入力する周波数や波形を制御することで、熱電対で計測する温度にどのような変化が生じるかを確かめる。将来的なポンププローブ実験に備え、特に次年度は基礎的な実験に集中する。
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