研究課題/領域番号 |
20H02201
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
水柿 義直 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30280887)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2020年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | ナノテクノロジー / 単一電子トランジスタ / ナノ粒子 / 実験 / 非線形応答 / リザバー計算 / 金ナノ粒子 / 強磁性ナノ粒子 / 低温実験 |
研究開始時の研究の概要 |
新しい情報処理システムであるリザバーコンピューティングは,入力信号を非線形変換するリザバーと,リザバー出力と得たい出力との間を埋めるニューラルネットワークから構成される。本研究課題では,ナノ粒子の集合体がリザバーとして機能することを実証する。ナノ粒子の集合体の中では,単一電子トランジスタ(SET)がランダムに接続されている。過去の研究から,ゲートリークがあるSETは間欠発振すること,誘電泳動で作製した金ナノ粒子列がSETとして機能すること,強磁性体で作られたSETは磁場応答することが分かっている。これらを利用して,これまでにないナノ粒子集合体のリザバーを超小型固体集積回路として実現する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では,ナノ粒子の集合体を作製し,これがリザバーとして機能することを実証する。ナノ粒子の集合体の中では,微小トンネル接合のネットワークが形成され,単一電子トランジスタ(SET)がランダムに接続されている状態にあり,これ利用して,これまでにないナノ粒子集合体のリザバーを超小型固体集積回路として実現し,リザバーコンピューティング動作を実証する。3年目となる2022年度での主たる成果は次の通りである。 まず,ナノ粒子集合体作製プロセスの実績を積むことができた。直径約200 nmの円周上に配置された6本の金端子の先端部付近に,誘電泳動もしくは多段階液浸法で金ナノ粒子集合体を作製し,いずれの方法においても非線形応答をする素子を作製することができた。なお,誘電泳動を使用する場合は,2年目に組み上げた誘電泳動自動停止装置を用いた。 作製した素子の電気的特性の評価としては,通常の電流-電圧特性,2年目に確立した入力電圧-出力電流特性に加えて,入力電圧-出力電圧特性の測定方法を立ち上げた。まず,1入力-3出力の構成において,正弦波入力電圧に対する出力電流を測定し,その結果を用いた任意波形合成実験を行った。出力ターゲット波形は,三角波,矩形波,余弦波とし,計算機上にてリッジ回帰によって重みづけを行った。出力が3つに限られていたため,波形合成には誤差が生じたが,遅延を入れた3素子構造を計算機上に構築して誤差を減少させることに成功した。年度末に1入力-5出力の構成において,正弦波入力電圧に対する出力電圧を取得することができた。現在,その特性解析および任意波形合成応用について取り組んでいる。 これらの3年目の成果については,一部を国内学会にて口頭発表しているが,主たる内容については4年目に発表する予定であり,国際会議への発表申し込みを済ませたものもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響により,1年目と2年目は「やや遅れている」状況であったが,2年目に素子作製プロセス(自動停止システムを備えた誘電泳動法と多段階液浸法の二種類)が大きく進展したことにより,3年目となる今年度ではリザバー計算ノードとしての特性評価に取り組むことができるようになった。特性評価にいたった素子数が少なく,また外部発表件数も多くはないが,当初の研究計画調書に記載した計画に追いついてきたと言えるため,進捗状況の区分を「おおむね順調に進展している」とした。リザバー計算の応用である任意波形合成実験は,遅延時間モデルを導入することで精度向上を実現しており,当初の計画には含まれていなかった成果である。反省としては,研究当初から素子作製に注力していたことで,素子の静特性評価法は立ち上がっていたものの,動特性評価実験の準備が後手に回っており,実効的な動特性評価法の整備にやや時間を要した。その際,使用している電流-電圧変換アンプの仕様の関係で,出力を電流で読みだす際の周波数の上限が低めになる傾向が判明し,出力を電圧で読みだす方法の確立が重要であった。年度末までに素子特性評価方法を一通り整えることができたことから,リザバー計算ノードの一般的な評価指標である短期記憶容量についても算出可能となり,他技術との比較も可能になると思われる。ただし,測定データから評価指標を算出するプログラムを整えることで効率化を図る余地がある。また,素子作製プロセスとの兼ね合いとして,出力を電圧で読みだすことが可能な素子の作製条件が必ずしも明確には判明していない。 なお,測定系の構築に関しては,徐々に対面開催となってきた国際会議や国内学会での意見交換や情報収集が効果的であったと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
4年目の令和5年度においては,コロナ禍による活動制限はほぼなくなると思われることから,研究打ち合わせや装置利用等をより一層効率的に行う。 まず,素子作製プロセスの最適化を継続的に行う。作製ののち,室温抵抗評価で「電極端子間にトンネル接合列が形成された」と判定された試料について,「ナノ粒子ランダム配列のリザバーとしての特性評価」を実施する。準静的特性の測定には半導体パラメータアナライザを用い,動的特性の測定にはディジタル・オシロスコープを加えて,これらをPCで制御し,測定を実施する。必要に応じて,外部電源や電流-電圧変換アンプも組み込む。単一電子帯電効果が発現すれば,電極端子間の電流-電圧特性は非線形となり,かつ,他端子に印加する電圧によって,そのクーロン閉塞が変調される。測定結果を吟味し,非線形性が大きな端子や,他端子間の特性への影響が大きな端子などを選別した後,入力端子群,出力端子群,制御端子群に分け,入出力特性を測定・評価する。なお,前述の通り,出力を電流で読みだす場合は周波数の上限が低めとなるため,出力を電圧で読みだすことが可能となる素子の作製条件を追求する。その際,ナノ粒子材料として,まずは金ナノ粒子に主眼をおき,強磁性体ナノ粒子についてはその後に取り扱う。 当初の予定ではリヤプノフ指数を評価する予定であったが,物理リザバーに関する研究報告で一般的に用いられている短期記憶容量や波形合成・波形分類のような応用志向の評価指標を用いる。測定データから評価指標を算出するプログラムを整える。また,データを蓄積し,試料の静特性とリザバー計算ノード性能との相関,あるいは試料作製条件と性能の相関について調査し,ナノ粒子ランダム配列をリザバー計算ノードとして使用するための知見を得る。強磁性体ナノ粒子を使用する場合は,外部磁場の大きさの違いによる応答の違いを活用した応用を採用する。
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