研究課題/領域番号 |
20H02569
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森川 良忠 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (80358184)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2020年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
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キーワード | 第一原理電子状態計算 / 機械学習 / 触媒 / 金属 / 二酸化炭素 / 第一原理計算 / 不均一触媒 / 水素化 / Cu / CO / 表面 / 密度汎関数理論 / 機械学習ポテンシャル / Zn / 合金 / 分子動力学法 / 拡散 / マルチスケールシミュレーション / 反応速度 / メタノール合成 / 電子状態 / キネティック・モンテ・カルロ / ステップ / クラスター展開 |
研究開始時の研究の概要 |
不均一触媒はしばしば高温、高圧の条件下で行われるため、反応中の触媒の状態を観測することが重要であると認識されています。本研究課題では, 大規模第一原理電子状態計算手法と動的モンテ・カルロ (kMC) 手法を主として組み合わせたマルチ・スケール・シミュレーションにより、温度や雰囲気ガスの圧力下での不均一触媒の動的変化も含めた触媒反応過程を原子レベルから明らかにする手法を開発し、二酸化炭素からのメタノール合成反応などの具体的な不均一触媒反応に適用します。シミュレーションの結果を最新の実験と比較して、触媒の反応性を支配する要因を解明し、より効率的な触媒を設計する指針を与えることを目指します。
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研究実績の概要 |
不均一触媒の固体や微粒子表面上では、反応物や反応中間体、生成物が吸着し、さらに、有限温度下での反応であるため、構造や化学的性質が常に変化している。本研究課題では、この問題に対し、大規模第一原理電子状態計算手法とマルチ・スケール・シミュレーション手法を駆使して、真正面から答える事を目的とする。 令和四年度はCO分子がCu表面上に吸着することによりCuクラスターが形成される過程について、第一原理電子状態計算と機械学習ポテンシャルを組み合わせてシミュレーションすることに成功した。CuはCOとH2OからCO2とH2を生成する水性ガスシフト反応の触媒として使用されている。最近、CO雰囲気ガス中でSTM観測なされ、Cu表面上でCuの小さな島が多数生成していることが見出された。CO雰囲気ガスが無い真空中で清浄なCu表面を観測した場合は平坦な表面が見られ、雰囲気ガスが存在すると多数の小さなCuの島が生じ、Cu表面上に多数のステップやキンクが生じ、これが触媒反応を高めていると考えられる。よって、この小さな島の生成過程を明らかにすることは基礎科学的のみならず応用上も重要である。そこで、第一原理電子状態計算と機械学習ポテンシャルを組み合わせることにより、小さな島の形成過程をシミュレーションした。 その結果、まず、CO分子はCu表面上に存在するステップエッジに選択的に吸着し、COが吸着したCu原子はステップから外れやすくなっていることがわかった。そのために、CO吸着したCuはステップエッジから外れ、Cuテラス上を拡散し出す。そして、複数のCO-Cu錯体が会合することによりCOが吸着したCuクラスターが形成されることがわかった。小さな島の形成条件は、温度と気相のCOの圧力にも依存することが明らかとなった。これらの結果については現在論文を執筆中で、近いうちに英文学術雑誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記概要欄でも記述したように、令和四年度は密度汎関数理論(DFT)と機械学習ポテンシャル(MLC)を組み合わせることにより、CO雰囲気ガスによるCu表面上でのCuクラスターの形成過程についてシミュレーションすることに成功した。本研究プロジェクトで令和二年度に、DFTとキネティックモンテカルロ法(KMC)により、COが吸着していないCu表面の有限温度のシミュレーションを行ったが、COが吸着していないと、ステップの形は揺らぐことは頻繁に観測されるが、Cuのアドアトムがステップ端を離れてテラスに出ることはほとんどないことを確かめている。COが吸着することによりCuがステップ端から外れやすくなり、CO-Cu錯体が多数テラス上を拡散する事が観測された。それらのCO-Cu錯体がテラス上で会合することにより小さなクラスターが形成される。当初、本研究プロジェクトではDFTとKMCを組み合わせること計画していたが、KMCはあらかじめ反応素過程を全てリストアップする必要があり、重要な素過程を全てリストアップしたかどうかは保証がなく、KMCの限界である。実際、Cu-Znの表面合金形成過程では、複数のそういった過程がDFTとガウス過程回帰(GPR)によるMLPを用いた分子動力学法(MD)によって見出され、この手法の優位性が明らかとなった。この手法をCO/Cu系に適用したところ、COの吸着量が増えるに従い、CO分子間相互作用によりCOの吸着構造がかなり傾いてくるなど、KMCでは取り入れにくい被覆率依存性がある事がわかり、この手法によって初めて精度よくシミュレーションする事がわかった。 さらに、このCuクラスターは大変反応性が高く、水性ガスシフト反応を促進する要因となっていると考えられる。雰囲気ガスによる反応の活性サイトの形成過程のシミュレーションに成功し、本研究計画の目的を達成したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに挑戦的な問題に取り組む。CO2がCu表面上でフォルメートに水素化する反応がEley-Rideal過程、すなわち気相のCO2分子が表面吸着水素と直接反応しフォルメートができることを以前に理論的研究から明らかにした。さらに, その遷移状態ではCO2は大きく屈曲しており、このことから気相のCO2分子のO-C-O変角振動を励起することにより, 水素化反応が促進されると理論的に予測し, 実験的に実証された。通常、金属表面上での吸着分子の振動励起状態の寿命は数ps程度であり, よって振動励起はすぐさま脱励起するため、表面化学反応過程を促進することはほとんど無いと考えられてきた(Shirhatti, et al., Nat. Chem., 2018)。Cu表面上でのCO2の水素化反応は非常に珍しい系であり, より詳しく調べる必要があると考えられる. この触媒反応過程では非平衡な化学反応過程が重要であることを示しており、熱平衡状態の反応速度論からはこの結論は導くことができない。よって、CO2の水素化反応の動的シミュレーションを行い、多数の化学反応経路をサンプリングすることにより反応確率を見積もることを目指す。そのような計算は、分子の解離吸着反応に関してはこれまで行われて来ていた(Kroes, Phys. Chem. Chem. Phys., 2021)。しかしながら分子の結合を組み替える反応に関してはまだそのような研究が報告されていない。そこで、DFTとMLPを組み合わせたMDシミュレーションにより、この反応経路を多数サンプリングし、反応速度をDFTの計算精度レベルで直接導き出すことを目指す。そして、反応速度を支配する要因(内部自由度の振動状態、並進エネルギー、入社角など)を明らかにし、より反応性を高める指針を与えることを目指す。
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