研究課題/領域番号 |
20H02616
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 了太 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40633962)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2020年度: 15,080千円 (直接経費: 11,600千円、間接経費: 3,480千円)
|
キーワード | トポロジカル絶縁体 / 量子異常ホール効果 / スキルミオン / 強磁性 / 薄膜 / トポロジカルホール効果 / ヘテロ構造 / 分子線エピタキシー / ジャロシンスキー-守谷相互作用 / 磁性 / トポロジカル結晶絶縁体 |
研究開始時の研究の概要 |
トポロジカル絶縁体(TI)に生じるDirac粒子と強磁性の関係については、量子異常ホール効果発現に向けた研究は盛んな一方で、基礎学理のみならずスピントロニクスへの応用などに対し重要な見地であるにも関わらず、Dirac粒子自体が強磁性に及ぼす影響については殆ど未解明である。その中、申請者らはトポロジカル結晶絶縁体(TCI)SnTeを用いたEuS/SnTe接合において検証したところ、驚くべきことにバルクEuSのキュリー温度を大幅に越えた室温付近での界面磁化の増強が見られた。本研究ではこの特異な界面高温強磁性機構の解明と、それを活かした世界初のTCIにおけるマルチバレーQAHEの高温観測を目指す。
|
研究実績の概要 |
本研究では強磁性をトポロジカル絶縁体表面に導入して起こる様々な効果を観測することが狙いである。特に試料端に量子異常ホール効果によってカイラルエッジ状態が誘起されたり、表面に強磁性渦のスキルミオンが誘起されることが期待できるため、そのような新奇状態について調べていきたい。意義としては、前者はエネルギー無散逸スピン偏極伝導となるため、低消費電力スピンデバイスへの応用が期待でき、後者はトポロジカルにnontrivialであることが期待されるため、外乱に頑丈なスキルミオンメモリなどが期待できる。また、強磁性とトポロジカル状態の組み合わせは、物理現象としても解明すべきことが多く基礎学理構築上も重要である。そして更に発展形として、本研究ではトポロジカル結晶絶縁体を用いた量子異常ホール効果の観測も重要な目的としている。本研究でベースとする物質の一つが、真性自己形成強磁性トポロジカル絶縁体(FMTI)であるMn(Bi,Sb)2Te4であり、これはBiとSbの組成比xを調整することでフェルミ準位が制御可能なFMTIである。これまでの実績としてスキルミオンの観測が挙げられるが、その後に続く研究としては、Mn(Bi,Sb)2Te4のSb組成比を変化させたときの、強磁性特性の調査が挙げられる。これはより高温で量子異常ホール効果を実現する上でも重要な知見である。実験結果によるとSb組成比を増やすとキュリー温度が上昇し、格子定数は小さくなることが分かった。バルク結晶のMn(Bi,Sb)2Te4においては面間(c軸方向)の反強磁性秩序が生じやすく、また面内は直接交換相互作用由来と思われる強磁性相互作用が働いていると言われているが、薄膜試料の我々の結果はそれとは整合せず、RKKY相互作用由来である可能性を示唆している。そうであるとすると、キャリア密度依存も期待でき物性の制御も視野に入れられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真性自己形成強磁性トポロジカル絶縁体を用いたサンドイッチ構造でスキルミオンを誘起することに成功し、さらにその特性を詳細に調査した。これは当初の予想よりも収穫が多く、また強磁性特性の調査や、エッジ状態の探針による観測など多くの後続する研究を導いていることから、研究は順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は二つの方向性を大きく考えている。一つはMnSb2Te4であり、これはMn(Bi,Sb)2Te4においてSb組成を100%としたものであり、近年ARPESによってnontrivialでありギャップも比較的大きく開きキュリー温度も高くディラック点がフェルミ準位に近い位置に来るという報告があった。そのため、これを舞台として採用すれば電気伝導で量子異常ホール効果など観測するのに適した系となると考えている。我々としてはこの薄膜を分子線エピタキシー装置でより高品質に作製し、膜厚も最適化した上で量子異常ホール効果などの量子現象の観測を目指したい。また独自の独立駆動4探針STM装置を用いて、カイラルエッジ伝導を観測することも計画しており、探針距離を小さくすることで不純物効果を抑えることが可能と予期され、これが可能となれば量子異常ホール効果の観測温度の向上や、カイラルエッジ状態の空間分布を電気的にマッピングできると期待している。カイラルエッジ状態は、エッジに存在するとは分かっているが、具体的にどの程度の実空間スケールでエッジ状態が形成されているのかについても分かっておらず、そういった基礎知見の蓄積も重視していきたい。また、トポロジカル結晶絶縁体系での量子異常ホール効果の実現に向けても研究を計画している。これが可能になれば世界初のコントローラブルマルチチャネルのエネルギー無散逸トポロジカルエッジデバイスができると期待される。
|