研究課題/領域番号 |
20H02635
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30010:結晶工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
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研究分担者 |
金崎 順一 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80204535)
安武 裕輔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 技術専門職員 (10526726)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
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キーワード | 超薄ゲルマニウム / マルチ軸応力 / 超高歪 / 疑似直接遷移化 / 室温電流注入光利得 / 擬似直接遷移化 / 強結合 / 微小共振器 / 励起子ポラリトン / 超薄膜ゲルマニウム |
研究開始時の研究の概要 |
IV族半導体は一般に間接遷移型のバンド構造をもつため反転分布の形成には不利と考えられてきた。異方性歪を内包したゲルマニウムにおける間接・直接バレーの反転は、これに向けた有効な戦略でありながらも波長域の赤外シフトという本質的な問題を抱えていた。本研究は、精密に制御した多軸の非等方的応力下で生じるゲルマニウム単結晶量子井戸のバンド構造変化にもとづく新機軸の物性制御・機能改変の試みである。薄膜直接接合、超高精度エッチング、インターカラント介在エピタキシーの技術融合によって非従来型のポンテシャル分布制御を達成し、マルチ軸精密高歪制御ウルトラ薄膜化ゲルマニウムの室温電流駆動光利得とレーザー発振を目指す。
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研究実績の概要 |
2年度では、Caサーファクタント・インターカラントエピタキシーによる超薄膜Geの形成を行った。Ge(111)上へのCa,Ge同時蒸着の後、低温でのHCl浸漬によってGeHに変換し、ゲルマナン(GeH)薄膜を形成した。6回対称のGeH(002)ピークからヘテロエピを検証した。その過程で多層GeHを得たが、共同研究先の協力を得て電荷輸送特性評価を行ったところ2x10^5cm^2/Vmと極めて大きなホール移動度が得られた。15KでGeHでは初めてのシュブニコフドハース振動が観測された。Hall効果からは2x10^11cm-2程度の単一正孔バンドの伝導、密度汎関数によるバンド計算からはバルクの軽い正孔の2倍程度の第一価電子バンドの面内有効質量が示唆され、実験結果と整合的であった。一方、初年度に共同研究先の協力を得て作製した直接接合によるnmオーダーの超薄Geのより系統的な光学評価を試みた。アモルファスAl203障壁の単結晶Ge量子井戸の直接端光学遷移を追跡し、量子サイズ効果の定量的評価を行った。電子ラマン散乱から見積もった障壁高が理論予測(4eV)を大幅に(2eV)下回り、かつデータ再現にGeのバンド端の上方シフトが必要だったことから酸化膜Ge界面およびビルトイン歪の影響が示唆される。一方、pn接合によらないインパクトイオン化を用いた電流注入室温発光をGe量子井戸で検証し、間接端の再構成を評価するための赤外分光系が必要なことがわかった。これらの結果を踏まえ、受動的な電流注入を積極利用する着想を得た。他方、昨年度からの強結合系の励起子ポラリトンを取り込む戦略にそってショートカットの強化を図った。誘多反射器へのGe貼り合わせ、固相成長Geを検討し、さらに歪制御する方法を検討した。さらにラマン分光の装置系の整備を行い、量子閉じ込めによるゾーン折返し音響フォノンが観測できる準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
構造形成に関しては、中心的役割を果たすCaサーファクタント・インターカラント介在エピタキシーが定常稼働に入った。GeとCa供給にともなう表面再構成、薄膜モフォロジ、多層膜結晶構造の検証を経て、小さな有効質量の重い正孔の電気伝導が観測されている。しかし、肝心の分光評価では、極低温装置周辺の重度の不調によって複数の評価項目に若干の遅れが生じている。一方、同時進行の予定であった完全直接遷移化が期待される Hexagonal (Hex)-Si.Ge超薄膜結晶の選択成長と昨年からのナノワイヤ側壁への選択成長によるWurzite Si.Ge超薄膜結晶の形成に関しては、実験的制約から複数の事項が次年度への課題として残された。共振器の文脈から派生的に着手したGe単結晶の固相成長に関しては、Caフリーな分子線エピタキシーが必須であるが、蒸着源周辺の故障が目立つようになってきた影響で予定よりも進行が遅れた。それでも繰越し年度内に研究室の総力を上げて修理と調整を行うことで、構造形成と評価に関して稼働状態を回復できた。そのおかげで必要なデータと所望の結果が順次、蓄積されてつつある。またタイトルの一角をなす電流注入については、光利得発生を除けばほぼ計画どおりの成果が得られてきている。一方、昨年から手がけてきた機械研磨Ge超薄膜のスプリットオフ正孔の電子ラマン遷移にともなう光利得発生の実験的証拠の積み上げがほぼ完了した。これらを側方から支援すべきバンド計算に密度汎関数法を取り入れることで歪下でのバンド端状態の変化が追跡できるようになりつつある。以上のように計画に比べて進行のペース自体が速くない反面、複数の新規アプローチ採用とショートカットの検討によって共振器と利得発生への目処が立ったことで、最終目標である電流注入下の光利得発生とレーザー発振の成果を所定期間内に達成する上で特段の支障はないものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画どおりに電流注入下の光利得発生の実験的証拠を蓄積すべく、マルチ軸歪制御下における発光緩和過程の分光学的知見を集約する。構造制御に関しては、Hexagonal (Hex)-Ge, SiGe混晶超薄膜結晶の選択成長とナノワイヤ側壁へのエピタキシャル選択成長ウルツ鉱SiGe,Ge超薄膜結晶の作製を試み、分光学的にバンド端の赤方偏位を見積もる。さらにSi, Ge, SiO2上のCa/G/Ca/Ge構造をフッ化処理したCaF2障壁層Cubic-Hexagonal構造ハイブリッド構造を利用してGe層数を精密制御したGe量子井戸の形成を試みる。極低温環境からスタートして量子閉じ込めシフトを基軸に室温直接遷移利得を可能にするためのGe量子井戸構造パラメータの最適化を行う。一方、マルチ軸歪の精密制御に関しては、多軸積層ピエゾ機構とは別の選択肢として時間波形を高精度に制御することが可能なAl層のレーザー瞬時加熱による動的応力印加法を新たに検討に加え、利得の発生を可能にする歪の条件を精査する。その一方で、これらのフェールセーフ対策としてアモルファスAl203障壁Ge量子井戸の直接端の活性化を試みる。これには微小共振器における励起子ポラリトン発生の可否が鍵を握る。スパッタ成膜したの広帯域SiO2/Ta203多層膜ブラッグ反射器と新規に立ち上げた酸化物結晶成長装置により作製したAl2O3/Ga2O3ブラッグ反射器を用意し、応力印加用ポートのための微細加工を行った表面にSiO2/Geのボンディングによって微小共振器の形成を試みる。さらに反射、透過における真空ラビ分裂および蛍光のポンプ光偏光保存特性にもとづいてGeの直接遷移端励起子ポラリトンの発生の検証を試みる。さらにインパクトイオン化の知見から新たに想起した電流注入による面内加速と熱い電子・正孔を用いた反転分布の形成について検討を加える。
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