研究課題/領域番号 |
20H02655
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (70793800)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2020年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | フォトニック結晶 / フォトニック結晶レーザー / 短パルス / 結合波理論 / フォトニック結晶レーザ / 半導体レーザ |
研究開始時の研究の概要 |
短パルス幅・高ピーク出力・高ビーム品質で動作するレーザーは、レーザー微細加工、レーザーセンシング、生体イメージング等、多岐にわたる応用で重要な光源である。本研究では、フォトニック結晶の2次元共振作用をレーザー発振に利用した面発光型半導体レーザー(フォトニック結晶レーザー)において、屈折率勾配の導入という、新しい原理の短パルス・高ピーク出力化の手法を提案し、外部増幅器を用いない単一光源から、パルス幅数10ps未満, ピーク出力100W~1kW級の短パルス・高ピーク出力発振を実現することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、フォトニック結晶の2次元共振作用をレーザー発振に利用した面発光型半導体レーザー(フォトニック結晶レーザー:PCSEL)において、屈折率勾配(バンド端周波数勾配)の導入という新たな短パルス・高ピーク出力化の手法を提案し、外部増幅器を用いない単一光源から、高ビーム品質を維持しつつ、パルス幅数10ps未満, ピーク出力100W~1kW級の短パルス・高ピーク出力発振を実現することを目指す。 2022年度は、まず、2021年度に作製した周波数勾配を導入した直径1mmのPCSELについて、より高振幅電流を注入した際の詳細な発振特性の評価を行った。その結果、25Aの電流注入で、100Wを超えるピーク出力が得られることを明らかにするとともに、さらに高電流を注入した際には、フォトニック結晶面内を光が往復するような特異な発振現象が生じることを見出した。また、上記の特異な発振現象が生じる原因を数値計算により明らかにし、より安定な高ピーク出力パルス発振を得るための設計指針を明らかにした。続いて、2021年度に当初の計画を超えて設計を行っていた、周波数勾配と可飽和吸収領域を同時に導入したPCSELについても、実際にデバイス作製を行い、その発振特性の評価を行った。その結果、20Aの電流注入において、パルス幅30ps未満、ピーク出力180W級の高ピーク出力・短パルス発振を実証することに成功した。さらに、上記のPCSELにおいて、分散補償媒質を用いたパルス圧縮の実験を行った結果、パルス幅10ps程度、ピーク出力300W程度のパルス発振が得られ、PCSELのさらなる高ピーク出力・短パルス発振動作が実現した。以上を通して、本研究課題の最終目標(ピーク出力100W~1kW級)を1年前倒しで達成することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、バンド端周波数勾配の導入という新たな原理によるPCSELの短パルス・高ピーク出力動作の実現を目指しており、研究項目として、(I) 周波数勾配型PCSELの動作特性の解明、(II)周波数勾配型PCSELの作製手法および周波数勾配の評価手法の開発、(III)勾配型PCSELによる短パルス・高出力パルス発振の実証、(IV) さらなる短パルス・高出力化に向けた、勾配型PCSELのパルス圧縮制御の検討、の4項目を設定している。2021年度の時点で、項目(I)(II)(III)を完了し、項目(IV)についても数値計算にてパルス圧縮制御の有効性を見出していた。2022年度の研究では、前年度に作製したデバイスのより詳細な評価を行うことで、100Wを超えるピーク出力の実現にはじめて成功した。また、当初の計画にはなかった、周波数勾配と可飽和吸収領域の両方を導入したPCSELの作製を行い、180W級のピーク出力の短パルス発振の実証に成功するとともに、項目(IV)のパルス圧縮動作の実験的検証を行い、パルス幅のさらなる減少(~10ps)とピーク出力のさらなる増大(~300W)にも成功した。以上により、本研究の最終目標を1年前倒しで達成することが出来た。本成果は、バンド端周波数分布の導入という新しい概念により、単一チップの半導体レーザーから数100W級の短パルス・高ピーク出力発振が得られる事を実証した点で、学術的にも実用的にも重要な成果である。以上の成果をまとめた論文は、2023年1月にNature Communicationsに掲載され、複数のメディアで記事が掲載されるなど、国内外で大きな注目を集めた。 以上により、全体として本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、2022年度までに、研究が当初計画以上に進行し、当初の最終目標であった、パルス幅数10ps未満、ピーク出力100W~1kW級の短パルス・高ピーク出力発振の実証に成功した。そこで、最終年度である2023年度は、2022年度までに得られたピーク出力のさらなる増大の実現に向けた追加の検討を行う。はじめに、周波数勾配型フォトニック結晶レーザーの面内に導入する周波数勾配の空間分布について、数値解析による自動最適化を行い、単一のデバイスにおいて、1kW級のピーク出力が得られる構造の設計を行う。その際、これまでに作製したデバイスで得られた過渡応答特性の測定結果と、対応する数値解析結果の詳細な比較を行い、解析に用いる種々の物理パラメータの更新を行い、数値解析の精度をこれまで以上に高めることを目指す。また、周波数勾配のみを導入したデバイスと、周波数勾配と可飽和吸収領域の両方を導入したデバイスについて、パルス幅・ピーク出力・繰返し周波数等の種々の発振特性の詳細な比較することで、それぞれのデバイスの特長を明らかにし、最も高いピーク出力が安定的に得られるデバイス構造を見出していく。その後、最適化を行ったデバイス構造の作製および高電流注入を可能とするレーザーデバイスの実装条件の確立を行う。最後に、設計した周波数勾配型PCSELの過渡応答特性の評価を行い、単一の半導体レーザーチップで得られるピーク出力のさらなる向上を目指す。以上の検討を通して、バンド端周波数分布の導入という新しい概念に基づく、短パルス・高ピーク出力フォトニック結晶レーザーの研究開発のまとめを行う。
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