研究課題/領域番号 |
20H02669
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山路 哲史 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00571704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 超臨界圧軽水冷却炉 / 小型炉 / 炉心設計 / 過酷事故解析 / MPS法 / スーパー高速炉 / 原子炉過酷事故解析 / In-Vessel Retention / MELCORコード / マルチフィジックス |
研究開始時の研究の概要 |
従来の原子炉の安全研究は究極の安全性を追求するのみだが、それでは絶対安全を求める社会とのギャップを永遠に埋められない可能性がある。そこで、本研究では簡素でコンパクトな貫流直接サイクルを採用する超臨界圧軽水冷却スーパー高速炉を対象に、万が一の事故時には全炉心がメルトダウンし、RPV底部に移行することを前提にする。その上で、RPV内部に燃料デブリを留め、その再臨界を回避して安定冷却を達成する(福島事故のようなデブリの炉外への流出を起こさない)、新しい事故復旧性小型スーパー高速炉の概念を創出することを目的とする。
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研究実績の概要 |
従来の原子炉の安全研究は究極の安全性を追求するのみだが、それでは絶対安全を求める社会とのギャップを永遠に埋められない可能性がある。他の工学システムと同様に、原子炉も万一の炉心損傷事故は不可避の前提で、社会が受容できる復旧のあり方を技術的に提言する必要がある。福島事故からも分かるように、事故時に燃料デブリが原子炉圧力容器(RPV)の外に漏れだすと、プラントの復旧は不可能であり、廃炉に長い年月を要する。そこで、本研究では、簡素でコンパクトな貫流直接サイクルを採用する超臨界圧軽水冷却スーパー高速炉の炉心設計、過酷事故解析、溶融物挙動解析等から、過酷事故時には全炉心がメルトダウンし、RPV底部に移行することを前提に、RPV内部に燃料デブリを留め、その再臨界を回避して安定冷却を達成する、新しい事故復旧性小型スーパー高速炉の概念を創出することを目的としている。2022年度は以下の成果が得られた。 (1)スーパー高速炉の小型炉心設計の改良:前年度までに設計した炉心概念を改良するために、簡易的な解析により、スペクトルシフト運転に対応した超臨界水冷却炉の炉心の平均的な特性を明らかにした(2023年度中に査読付国際会議Proceeding発表予定)。 (2)プラント過酷事故解析:スーパー高速炉の設計基準を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)時プラント挙動等を、過酷事故解析コードMELCOR-2.2を用いて明らかにした。(査読付国際会Proceeding発表) (3)デブリ移行溶融挙動解析:固液混在デブリ群の溶融挙動解析手法を用いて、RPV底部でデブリ群が溶融する際のRPV壁の過渡的な熱負荷を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的達成のために「デブリ分散型In-Vessel Retention (IVR)」概念を考案した。過酷事故時には通常のIVRと同様に格納容器サプレッションプール水をRPV周囲のペデスタル領域に注水し、RPVを外側から冷却する。さらに、RPV内底部に耐熱材を敷設し、RPV外側からの燃料デブリの安定冷却が達成されるまでの間、再臨界に至るようなデブリの密集を防止する。具体的には以下の成果が順調に得られている。 (1)スーパー高速炉の小型炉心設計:当初想定したように、運転サイクル長を伸ばすために炉心の余剰反応度を大きくすると、メルトダウン時の再臨界回避に必要な耐熱材を大きくしなくてはならず、その定量的な関係を明らかにできた。さらに、当初は計画していなかったが炉心性能の低下を補うために新たに超臨界圧水冷却炉のスペクトルシフト概念を提案し、炉心の平均的な特性を把握した。 (2)プラント過酷事故解析:米国ISS社のプラント過渡・事故挙動解析コードASYSTにより得られた超臨界圧運転条件のプラント状態を初期条件とし、米国原子力規制委員会(NRC)の原子炉過酷事故解析コードMELCORを用いたスーパー高速炉の冷却材喪失事故(LOCA)解析を当初の計画通り、設計基準事故を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)にまで拡張できた。さらに当初は計画していなかったが、そのようなIVRを実施した場合、格納容器ベントを不要とできる可能性の検討に着手できた。 (3)デブリ移行溶融挙動解析:粒子法の一種であるMPS法を改良し、固体伝熱モード支配のフェーズでは解析時間幅を流体の自然対流モード支配のフェーズに用いるそれの大きなものに変更する方法を考案し、デブリ再溶融過程の解析に成功した。さらに、従来の想定を超えた長期間の事象を解析する場合にはクラストモデルのさらなる改良の必要性があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のために、今後は以下を実施し、事故復旧性小型スーパー高速炉の概念創出のための炉心概念研究、プラント過酷事故時挙動解析、溶融物移行解析に取り組む。
(1)スーパー高速炉の小型炉心設計:これまでにIVR冠水高さと炉心設計の関係を明らかにし、IVR冠水高さを低減するSuper FR-IVR炉心設計概念を示した。また、炉心損傷進展過程における炉心・燃料デブリの反応度変化挙動の評価が可能となったため、今後は投入反応度の低減策の検討が課題と考えられる。例えば炉心損傷が不可避の状況に至った場合には炉心への注水をしない方が炉心部に投入される反応度は低く抑えられる可能性がある。 (2)プラント過酷事故解析:スーパー高速炉の過酷事故解析を実施する。スーパー高速炉の設計基準を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)時プラント挙動等を、過酷事故解析コードMELCOR-2.2を用いて明らかにし、IVRの実施により格納容器ベントを不要とできる可能性を明らかにすることが課題である。 (3)デブリ移行溶融挙動解析:これまでに開発した改良MPS法を用いて、従来想定していたよりも長期間の事象を解析する場合には従来のクラストモデルでは不十分である。具体的には数値安定性のために導入しているParticle Shifting法による粒子座標の微調整が長期間の事象では累積して、数値的にクラスト粒子が移行してしまうことが考えられる。長期間の事象進展に対応する新たなクラストモデルの開発が課題である。
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