研究課題/領域番号 |
20H02685
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 淳也 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (30322168)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2020年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
|
キーワード | メカノケミストリ / 反応経路 / 電子状態 / ポテンシャル面 / 反応原理 |
研究開始時の研究の概要 |
力学的刺激によって化学反応や物性が変化する現象は、メカノケミストリと呼ばれる。反応の加速や化学発光に関連する実験結果が報告されてきたが、近年の研究では、化学反応の選択性が変化するという実験報告が急増している。選択性の変化はポテンシャル面の変化を示唆しており、特異な反応原理が潜在する可能性がある。しかしながら、その理論的な理解は進んでいない。本研究では、多様な外力を導入できる理論計算手法を開発し、メカノケミストリにおける特異な化学反応原理を明らかにする。力学的刺激がポテンシャル面に及ぼす影響を電子理論に基づいて解析し、その反応原理を明らかにする。さらに溶液等を含んだ複雑系に研究を発展させる。
|
研究実績の概要 |
本研究では、外力を導入した理論計算手法を開発し、メカノケミストリにおける特異な化学反応原理について研究する。機械的刺激によって化学反応の選択性が変化するという実験報告が急増しているが、理論的な理解は進んでいない。選択性の変化はポテンシャル面の変化を示唆し、特異な反応原理が潜在する可能性がある。いくつかの基本的反応を取り上げて、力学的刺激下の反応原理を明らかにすることを計画している。 令和4年度は、銀触媒(銀薄膜)存在下でボールミルを使用した際に観察されるシクロプロパン化反応における選択性の起源に関する研究を行った。二つの銀スラブが上下に存在する反応場を想定してDFT計算を行い,実験的に観測された主要生成物が選択的に生成することを示した。令和5年度は,これらの研究成果を学術誌に投稿する。 本研究課題における一連の研究を通して,理解が進んだメカノケミストリの反応原理として,(1)分子触媒系では,外力を加えることで始原系の分子構造が遷移状態の構造に近くなり,活性化エネルギーが低下する機構が存在すること(J. Phys. Chem. A, 2021),(2)固体触媒系では,系を圧縮あるいは伸長することでdバンドセンターが変化し,COの解離吸着活性がBell-Evans-Polanyi(BEP)則に従って変化することがわかった。また,高インデックス界面では,外力刺激が反応経路の変化を引き起こし,非BEP則的な反応活性を示すこと(J. Phys. Chem. C, 2022),(3)ボールミルなどが提供する狭小反応場が,反応系の構造を制約し,特定の構造異性体を選択的に生成しうる機構が存在すること(to be submitted)を示した。また、様々な機械的刺激を分子系に導入してDFT計算を実施できるプログラムを開発し、GitHubを経由して一般ユーザの利用が可能な形で提供した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の計画の一つとして、力学的刺激を記述できるプログラムを開発し、力学的刺激下におけるポテンシャル面の研究を行うものであった。挑戦的な計画であったが、プログラム開発を完了して、一般ユーザが利用できる形で提供することができ、力学的刺激を付加する条件下でポテンシャルエネルギー面を計算することに成功した。予定より大幅に進捗したと考えている。このプログラムの概要や使用方法などをまとめた論文をSoftware Xという雑誌において発表した。 ボールミルを使用した化学反応における反応選択性の変化については、ボールミル刺激による熱エネルギーの供給効果や引っ張り刺激効果についての推測がなされたきた。それゆえ、今回のボールミル環境の反応場のモデル化は、新しい提案として、メカノケミストリ分野に新しい知見を提供できると考えている。以下、詳細について述べる。ボールミルが反応系に直接的に外力刺激を与える場合,始原系の構造が変化して遷移状態に近くなることで活性化障壁が低下することを,キチンの解重合を例に挙げて明らかにした(J. Phys. Chem. A誌にて発表)。また,ボールミルが狭小反応場を構築するケースとして,銀触媒で挟み込まれて生成する制約反応空間において特定の異性体が選択的に生成する経路を見出した(投稿準備中)。また、固体表面のCOの解離吸着については、触媒への力学的な刺激によって、CO分解の反応経路が変化する様子をDFT計算から明らかにした(J. Phys. Chem. C誌にて発表)。 以上のように,いくつかのメカノケミストリ系について理論化学計算を用いて研究し,背景にある反応原理を明らかにして,当該分野において理論的側面から貢献した。また,計算プログラムの開発と提供を通して,開発成果の普及にも取り組んだ。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は,研究機関の最終年度であり,未公表の研究成果をまとめ,学術誌に投稿する。上記「現在までの進捗状況」欄に記載したとおり,キチンの解重合において外力導入効果により生成物の選択性が変化する起源について,J. Phys. Chem. A誌にて発表した。また,Ru触媒上のCO解離吸着について,触媒への伸長/圧縮によってd-band centerの変化を通して,触媒活性が変化するメカニズムについて,J. Phys. Chem. B.誌にて発表した。さらに,これらの研究を行うために開発したソフトウエアについては,GitHubを通して公開した。 今年度は,ボールミルによって提供される狭小空間が反応選択性を制御するメカニズムについての論文を公表する。Ag触媒によってサンドイッチされた反応系が選択性に及ぼす仕組みについて,一連のDFT計算による研究がほぼ収束している。
|