研究課題/領域番号 |
20H02704
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 東京都立大学 (2022-2023) 東北大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
岡 大地 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20756514)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2020年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | アンダーソン局在 / 電子相関 / 酸化物 / エピタキシー / 超伝導 / 金属絶縁体転移 / 酸窒化物 / 複合アニオン / 二核錯体 |
研究開始時の研究の概要 |
高温超電導体開発の指針に電子相関の導入があり、これまでモット絶縁体の相転移現象が盛んに研究されてきた。一方、超伝導体相とアンダーソン絶縁体相が隣接する例も存在する。このような系で局在を抑制できれば新たな超伝導体探索の指針になり得る。本研究では局在を決定づけるパラメータとして、理論で検討されてきた不規則性・次元性に加えて、軌道分布に着目する。導電性酸化物を対象に、金属・絶縁体相図を実験的に作成する。得られた相図から局在による絶縁化を抑制するための指針を見出し、超伝導体をはじめとする機能性材料の開発を行う。くわえて、発見した超伝導体を用いたエピタキシャル接合素子の作成にも取り組む。
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研究実績の概要 |
本年度は前年度までの研究で合成に成功した遷移金属酸化物および希土類金属酸化物を対象に元素置換や構造変化による電子状態および電気伝導性の制御に取り組んだ。 層状ペロブスカイト構造を持つSr3V2O7は本研究で初めてエピタキシャル合成に成功し、異方性の高い金属的電気伝導性を示すことを明らかにした化合物である。本年度はSrサイトの一部をLaで置換することで電子ドーピングし、電子キャリア濃度が電気伝導性の異方性に与える影響を評価した。0から1/3までのLa/Sr比で不純物を生じずにLaを導入することに成功し、電子キャリア濃度はLa組成に対して単調に増加した。結晶構造はほとんど変化しなかったにもかかわらず、電子状態の異方性を反映する磁気抵抗の磁場方位依存性は等方的に変化した。すなわち、電子キャリア濃度によって構造変化を伴わずに電子状態の次元性を制御できることが見出された。 異常原子価状態を持つ希土類単酸化物は最近、エピタキシャル合成できることが分かった材料群であり、局在性の強い4f電子の性質が遍歴的な5d電子の電気伝導に反映される。これまでにCeOやPrOといった前期希土類金属単酸化物のエピタキシャル合成に成功し、弱い磁性と金属的な電気伝導が見出されている。本年度は後期希土類金属単酸化物であるHoOやTbOのエピタキシャル薄膜を合成し、その物性を評価した。いずれも明瞭な強磁性を示す一方、電気伝導率は前期希土類金属単酸化物に比べて低下した。これらの結果は4f電子数の変化によって磁性だけでなく5d電子に由来する電気伝導性が変化することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では主にd0~d1電子配置をとる遷移金属や希土類金属の酸化物および複合アニオン酸化物を対象に電気伝導性を系統的に評価することを計画していたが、継続的な研究の結果、当初の想定よりも広範な範囲で化学組成・結晶構造の制御が可能であることが分かってきた。たとえば、d1電子配置をとるSr3V2O7エピタキシャル薄膜の合成手法はSrサイトだけでなくVサイトの置換にも適用でき、d2電子配置を取るSr3Cr2O7のエピタキシャル合成に成功している。また、局在の起源となる酸素以外のアニオンの導入に関しても、窒素による置換のみを想定していたが、溶液プロセスであるミスト化学気相成長法によって硫黄やハロゲンも導入可能であることが分かった。さらに、上述のSr3Cr2O7では酸素欠損の導入が極めて大きな電気伝導性の変化を生じることを見出した。これらのアニオンサイトの化学組成は超伝導体をはじめとする物質を設計する上でアンダーソン局在の効果を制御するための可変パラメータとして活用できる。 また、希土類金属単酸化物も超伝導性LaOだけでなく広い希土類組成で合成できることが明らかになった。くわえて、合成技術にも研究開始当初から改良を重ねることができており、安定酸化物を不純物として含む薄膜の単相化に向けて有望な知見が得られ始めている。単純な岩塩構造を取る希土類単酸化物間でのヘテロ接合によって超伝導特性の制御にも着手している。このようなヘテロ構造では膜厚によって局在効果の制御が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は前年度までの研究で得られた構造・組成および膜厚と電気伝導性の関係に関する知見を活用し、アンダーソン局在の制御に基づく超伝導体の開発に取り組む。 遷移金属酸化物としては層状ペロブスカイト構造を取るSr3V2O7およびSr3Cr2O7の類縁化合物および高い電気伝導性が期待されるペロブスカイト型Nb酸化物をエピタキシャル薄膜として合成する。これまでの研究でカチオン組成および合成条件を変化させることで電気伝導層の厚さを制御できることが分かっているため、2次元的な電気伝導性を維持しつつ局在効果を抑制するために最適な構造を探索する。また、Sr3Cr2O7ではホールドーピングによる超伝導の発現が理論的に予想されているため、化学ドーピングによって3d1~3d2電子状態の中間状態をもつ化合物を合成し、その電気特性を評価する。くわえて、Sr3Cr2O7では酸素欠損の導入量を変化させることで広範囲の抵抗制御をねらう。一方、ペロブスカイト型SrNbO3では、これまでの研究において空間的広がりの大きな4d軌道に由来する高い電気伝導性を見出した。Srサイトの置換によって構造歪みを制御し、局在効果の抑制を狙う。 複合アニオン化合物においても硫黄やハロゲンなど、イオン半径の大きなアニオンの導入により2次元的な構造を取る化合物を合成し、絶縁層の化学組成制御によって電気伝導層に電導キャリアを注入する。たとえば、これまでの研究でBiとClの平面構造から成る電気伝導層を持つ材料が見出されたため、薄膜合成後に適切な試薬の存在下でアニール処理することで絶縁的な酸化物層にトポタクティック的に酸素以外のアニオンを導入する。 また、希土類単酸化物では4f電子数に対する電気伝導性の変化を調査するとともに、超伝導体を用いたヘテロ構造の合成と物性評価を進め、超伝導特性と局在効果の関連を系統的に評価する。
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