研究課題/領域番号 |
20H02748
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北川 裕一 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90740093)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2020年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
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キーワード | 希土類錯体 / トリボケミストリー / 化学反応 / 励起状態 / 発光 / 電荷分離励起状態 / ユウロピウム / セリウム / ガドリニウム / 4f軌道 / 触媒 / 励起反応 / 力学的な刺激 |
研究開始時の研究の概要 |
物質に力学的な力を加えたときにその物質が励起状態を形成し、発光する現象のことをトリボルミネッセンスという。申請者は希土類錯体を基盤としたトリボルミネッセンスの研究を行っており、近年「力学的な刺激で効率的に励起状態を形成する錯体設計」を突き止めた。本研究ではこの配位子設計に基づき、力学的な刺激で形成する励起状態を利用して「化学反応」を起こせる新しい錯体材料を創成する。具体的な研究達成目標は、力学的な刺激により(1)二酸化炭素を還元(目標1)できる錯体材料、(2)水から水素を発生(目標2)できる錯体材料、(3)酸素を活性酸素に変換(目標3)できる錯体材料をそれぞれ創成することである。
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研究実績の概要 |
物質に摩擦力を加えたときにその物質が励起状態を形成し、発光する現象のことをトリボルミネッセンスと呼ばれる。申請者はこの力学的な刺激による獲得した励起エネルギーを反応に用いることを検討してきた。本年度は以下の3点に着目し、希土類錯体を基盤とした力学的な刺激に基づく励起反応を研究した。 (1)積層したアントラセンを導入した希土類二核錯体:前年度までに積層したアントラセンを導入したユウロピウム、ガドリニウム二核錯体の力学的な刺激による反応を検討していた。本年度は、同じ配位子骨格を導入したイッテルビウム錯体を合成し、力学的な刺激による反応を比較検討した。ユウロピウム錯体とガドリニウム錯体とは異なった反応性を示すことが明らかとなった。 (2)セリウム錯体の合成:2020年度まで触媒能を示す遷移金属錯体と希土類錯体を連結させた多核錯体の合成を検討してきたが、高い結晶性の化合物を得ることが難しかった。そのため2021年度より希土類錯体そのものに励起状態形成に伴う触媒機能の付与を検討している。安定な電荷分離光励起状態形成を達成するためにガウシアン計算を用いて配位子設計のスクリーニングをして、電子アクセプター性配位子(ヘキサフルオロアセチルアセトナトやペンタフルオロベンゾエートなど)を導入した種々のセリウム錯体を合成し、光物性評価を行った。低温条件において光誘起電荷分離状態の形成を確認できた。 (3)ユウロピウム錯体の合成:(2)と同様に希土類錯体そのものに励起状態形成に伴う触媒機能の付与をするために、ユウロピウム錯体におけるπ軌道-4f軌道間の安定な光電荷分離状態を形成させることを検討した。2021年度より高いHOMO凖位を示すジメトキシカルバゾールを導入したホスフィンオキシド配位子を導入したユウロピウム錯体を検討してきた。今年度は本錯体の結晶構造作成および光誘起電荷分離励起準位を量子化学計算で再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当該研究課題の目標を達成するために力学的な刺激による励起反応およびユウロピウム/セリウム錯体の合成・物性評価について検討した。積層したアントラセンを導入した希土類二核錯体を合成し、反応性が希土類金属に依存することを確認できた。一方、2020年度まで触媒能を示す遷移金属錯体と希土類錯体を連結させた多核錯体の合成を検討してきたが、高い結晶性の化合物を得ることが難しかった。そこで2021年度より希土類錯体そのものに励起状態形成に伴う触媒機能の付与を検討している。ヘキサフルオロアセチルアセトナトと低振動型ホスフィンオキシド配位子を導入したセリウム単核錯体、ペンタフルオロベンゾエートと低振動型ホスフィンオキシド配位子を導入したセリウム二核錯体、ジメトキシカルバゾール骨格を導入したユウロピウム錯体を合成したところ、それぞれ低温条件において時間分解分光を用いて評価したところ、π軌道と4f軌道間の光電荷分離状態に基づく発光が観測された。さらに、アセチルアセトンを導入したセリウム錯体では長寿命なπ-4f光電荷分離状態を観測した。これは、励起四重項状態から励起二重項状態のスピン禁制遷移に由来していると考察している。本年度はスピン禁制の長寿命なπ-4f電荷分離状態を初めて観測できたところも大きな進捗である。また、量子化学計算による観測された新しい励起状態について解析も達成できた。以上より、現時点では最終目標は達成できていないが、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は希土類二核錯体を用いて力学的な刺激反応による希土類イオン依存性の拡張を行った。希土類錯体そのものに触媒能を持たすことで本研究の課題達成を行うために、室温で安定な光誘起電荷分離状態を形成するセリウム錯体とユウロピウム錯体の創成およびそれを用いた力学的な刺激による化学反応に関する研究を進める。 セリウムおよびユウロピウム錯体の電荷分離励起状態において、π軌道と4f軌道間の弱い相互作用に基づく、大きな双極子モーメントが生じると考えられる。また希土類錯体は配位数が多い(七配位以上)。そのため室温で安定な光電荷分離状態を形成しない理由は励起状態における大きな構造緩和に由来していると考えられている。そこで、既報で報告されているサリチル酸誘導体配位子を導入した九核希土類クラスターを設計した(Inorg. Chem. 53, 7635 (2014))。電子供与基を導入したサリチル酸誘導体配位子を用いた九核ユウロピウムクラスター、電子吸引基を導入したサリチル酸誘導体配位子を用いた九核セリウムクラスターをそれぞれ合成する。室温で安定な光電荷分離状態形成を確認後、力学的な刺激による化学反応を検討する。
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