研究課題/領域番号 |
20H02795
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増田 造 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70814010)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2020年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
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キーワード | 高分子ソフト界面 / 表面電位 / 精密ラジカル重合 / 生体材料 |
研究開始時の研究の概要 |
表面電位は界面機能を支配する重要な因子のひとつである。その指標としてゼータ電位が一般的に用いられるが、溶媒・イオンが浸透するソフト界面では厳密にはゼータ電位が定義できない。本研究課題では、高分子の精密重合を利用して系統的に構造制御したモデル界面を調製し、界面導電現象の解析と実際の表面構造の対応を調査することで、高分子ソフト界面の表面電位の正確な理解を目指す。イオン性のソフト界面を正確に理解することにより、その応用として抗菌性表面の設計指針につながると期待される。
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研究実績の概要 |
表面電位は界面機能を支配する重要な因子のひとつである。本研究課題では、高分子の精密重合を利用して系統的に構造制御したモデル界面を調製し、界面導電現象の解析と実際の表面構造の対応に基づいて、高分子ソフト界面の表面電位の正確な理解を目指す。さらに、高分子ソフト界面における分子間相互作用との関わりを調査し、生体材料の設計指針を得ることを目指す。 昨年度までに表面開始型原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)法により、カチオン性のPMTACをポリマーブラシ構造として膜厚・密度を変えながら系統的に合成し、界面動電現象の解析から表面電位の解析モデルについて検討した。 本年度はさらに膜厚・密度を変えたカチオン性ポリマーブラシと生体分子の相互作用解析を詳細に進めた。タンパク質吸着の解析において、高密度なポリマーブラシではアニオン性の牛血清アルブミン(BSA) は顕著に吸着し、カチオン性のlysozymeの吸着は少量であった。従って、高密度なポリマーブラシでは静電相互作用に基づいてタンパク質吸着が制御できた。また、タンパク質吸着に伴うエネルギー散逸を解析したところ、界面構造との相関が見られた。エネルギー散逸を示すD値の解析において低密度な表面ではΔD > 0であったのに対して高密度な表面ではΔD < 0であった。これは、高密度は表面で吸着に伴い、吸着したタンパク質がより硬くなる変化が起こることを示しており、脱水による構造変化が起こったと考えられる。バクテリアとの相互作用を解析したところ、高密度なカチオン性ポリマーブラシ表面で効果的な殺菌が見られた。タンパク質と強固に結合できる界面では、バクテリアと効果的に接触できるため殺菌性が得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、高分子の精密重合法を利用して構造制御したモデル界面を調製し、その界面における界面導電現象の解析から高分子ソフト界面の表面電位の正確な理解を目指すものである。 本年度は膜厚・密度を変えたカチオン性ポリマーブラシと生体分子の相互作用解析を詳細に進めた。タンパク質吸着をエネルギー散逸型推奨振動子マイクロバランス (QCM-D)を用いて解析した。高密度なポリマーブラシでは、アニオン性の牛血清アルブミン(BSA) は顕著に吸着し、カチオン性のlysozymeの吸着は少量であった。従って、高密度なポリマーブラシでは静電相互作用に基づいてタンパク質吸着が制御できた。また、タンパク質吸着に伴うエネルギー散逸を解析したところ、カチオン性ポリマーブラシの界面構造との相関が見られた。エネルギー散逸を示すD値について、低密度な表面ではΔD > 0(エネルギー散逸増加)であったのに対して高密度な表面ではΔD < 0(エネルギー散逸現象)であった。これは、高密度は表面で吸着に伴い、吸着したタンパク質がより硬くなる変化が起こることを示しており、脱水による構造変化が起こったと考えられる。バクテリアを構造が異なるポリマーブラシ表面に作用させて殺菌性を解析したところ、高密度なカチオン性ポリマーブラシ表面で効果的な殺菌が見られた。タンパク質と強固に結合できる界面では、バクテリアと効果的に接触できるため殺菌性が得られたと考えられる。 精密ラジカル重合による得られるポリマーブラシ表面は構造と機能の関係を解析する材料として適すると考えられる。ポリマーブラシ表面は化学構造にもとづく分子間相互作用の予測に向けたモデル表面としても利用できると期待される。高分子ソフト界面における相互作用を正確に予測するモデルとして機械学習によるモデル化にも取組始めており、データ駆動型の材料設計が材料開発の加速につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、機械学習によるポリマーブラシ表面は化学構造にもとづく分子間相互作用の予測をさらに進める予定である。ポリマーブラシの表面電位のデータベース化に努める。機械学習による予測モデルでは、教師あり学習を用い、ポリマーブラシの化学構造を説明変数とし、人工ニューラルネットワークや決定木・ランダムフォレスト・Lassoなどを検討する。タンパク質との相互作用解析には水晶振動子マイクロバランス法を用いることで、正確なデータベース構築ができると期待される。
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