研究課題/領域番号 |
20H02799
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
網代 広治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50437331)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 生分解性 / トリメチレンカーボネート / 高分子合成 |
研究開始時の研究の概要 |
持続可能な開発目標の中でも、海洋生分解性高分子の開発は急務である。とりわけ現代社会で欠かすことのできない汎用樹脂を代替する、新概念の生分解性ポリマーの研究開発が必須である。研究代表者は加水分解しても酸性有機分子を生成しない、感熱応答性生分解性ポリマーの合成を、世界で初めて成功した。予備的知見として、分解後もpHが中性を保持していた。本研究課題では、汎用樹脂の力学的特性と熱的特性を維持し、かつ有用な新しい生分解性高分子材料を創出するために、①新モノマーの設計、②高分子の構造制御、③分子間相互作用、を駆使し、エステルフリー型高分子の新しい学理を開拓する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、海洋分解性高分子材料のうち、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)誘導体を骨格とする新概念のモノマー・高分子の分子設計と、最適構造化の学理を開拓することである。特に、エステルフリー型でトリメチレンカーボネート(TMC)側鎖に導入された置換基が、その高分子の特性にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、新しい学理を構築することを目指していた。新モノマーの設計指針は、(i)汎用樹脂の化学構造、(ii) 高性能化構造、(iii) ブレンド剤と適合する化学構造、(iv)スイッチ機能の付与、から構成されている。 本年度は、(i)汎用樹脂の化学構造について、ポリエチレン・ポリスチレン・塩化ビニルなどの構造を取り入れた新規高分子を合成し、その耐熱性を明らかとした成果が得られている。まず、塩化ビニルを類似構造に見立てた場合では、塩素基が脱離基として働くためにモノマー合成が困難であることが分かった。一方で、ポリエチレン・ポリプロピレンを類似構造に見たてた場合では、炭素数8,12,16,18,20の直鎖アルキル基を側鎖に有する一連の新規モノマーを合成することができた。これらは通常の重合条件で分子量数千の高分子が得られ、側鎖の長さに従って融点、ガラス転移点、および熱分解温度などの耐熱性が向上した。さらに、ポリスチレンを類似構造に見立てた場合では、トリフェニルメチル基を導入したエステルフリー型PTMC誘導体について、TMCとの共重合体を様々なモノマー比で調製することに成功した。これらの共重合体においても、トリフェニルメチル基を導入した成分の量が増加するにしたがって、耐熱性が向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
側鎖に置換基を有しないPTMCと比べ、本研究課題において様々な新しいエステルフリー型PTMC誘導体を合成することができた。特に、長鎖アルキルやトリフェニルメチル基は、汎用樹脂のポリエチレンやポリスチレンに類似する構造としてとらえることができ、汎用樹脂を代替する分解性高分子を新たに分子設計し合成することができた。また、これらの新規モノマーの重合も実施し、重合条件と生成ポリマーの構造を相関づけることができた。 それぞれの新規ポリマーについて、ホモポリマーの耐熱性を評価し、通常のPTMCよりはるかに向上していることを見出した。TMCとの共重合体も得ることができ、共重合体成分の比率によって耐熱性などの高分子物性を制御できることも示した。 一方で、向上した耐熱性は汎用樹脂と比較するとまだ改善する余地があることも明らかとなった。また得られている高分子量が数千にとどまっている。力学的強度の評価を今後進めてゆくためには、2020年度に得られたモノマーを使用したポリマーについて、高分子量化が今後の課題となる。この点については、文献調査やこれまでの重合のノウハウを活かして、重合条件を検討することで改善を図る予定である。 以上のことから、計画通りに研究は実施され今後の課題と対策も明瞭であることから、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020度では、(i)汎用樹脂の化学構造について、ポリエチレン・ポリスチレン・塩化ビニルなどの構造を取り入れた新規高分子を合成し、その耐熱性を明らかとした成果が得られた。 そこで今後はまず、(ii)高性能化構造について着目して研究を進める。つまり、これまでに得られた種々のモノマーについて、そのポリマーの高分子量化と力学特性の改善を図る。つまり、汎用樹脂のポリスチレンから着想を得て側鎖にトリフェニルメチル基を導入した新規高分子化合物や、その類似体の種々のモノマーについて、力学特性を評価するために十分な量の高分子合成を行う。さらに、これら高分子の分子量を向上させることを目的として、これまで用いなかった重合方法を検討する。例えば、ボールミルによる重合法や、金属触媒を用いた重合法、溶媒を用いないメルト重合法などを試すことで、高分子量化を試みる。 得られた高分子材料は、昨年までに購入した混錬機やホットプレス機を用いてプレート化し、引張試験機によって破断強度を調べる。高分子の化学構造および高分子材料の調製条件と、力学特性との相関を明らかとする。これまでに得られている耐熱性の特性との関連も考察する。 さらに、(iii) ブレンド剤と適合する化学構造、(iv)スイッチ機能の付与については、申請書の計画通りに進める。具体的には、(iii)ブレンド剤として、天然高分子化合物や、水素結合などの分子間相互作用が期待される添加剤について分子構造の調査と候補化合物を探索する。(iv)スイッチ機能として、光や塩濃度に応答する刺激応答性化合物や触媒化合物についての調査を行い、本研究課題に用いる高分子化合物に適合するかどうかを調べる。
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