研究課題/領域番号 |
20H02848
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
飯久保 智 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40414594)
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研究分担者 |
石丸 学 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (00264086)
樹神 克明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (10313115)
松下 正史 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90432799)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
16,640千円 (直接経費: 12,800千円、間接経費: 3,840千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2020年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 原子対相関関数 / X線吸収微細構造 / 中性子線 / 透過型電子顕微鏡 / 有機無機ペロブスカイト / XAFS / TEM / 中性子回折 / 第一原理計算 / 局所構造解析 / 量子ビーム / 太陽電池 / 欠陥 |
研究開始時の研究の概要 |
ペロブスカイト(以下PVKと略)太陽電池はPb-PVKの発見により脚光を浴びているが、鉛フリーの観点からSn-PVKの開発が盛んに行われている。Pb-PVKでは20%を超えるPVK太陽電池が実現している一方で、これまでの報告ではSn-PVKの効率は10%程度と低く、結晶中に存在する欠陥が高効率化のための足かせとなっていた。我々は結晶中の欠陥、それに伴う局所歪みの詳細 を様々な量子ビームを用いた局所構造解析により明らかにすることができる。本提案ではこの実験手法を核としてSn-PVKの高効率化へ貢献する。さらには欠陥の効果を抑える添加元素を提案し、それを実証することを目的とする。
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研究実績の概要 |
有機無機ペロブスカイト化合物を太陽電池の光吸収層に使用したペロブスカイト太陽電池は、光電変換効率が25.7 %と従来のSi系太陽電池に匹敵する値を達成しており、次世代の太陽電池として注目されている。高効率なペロブスカイト太陽電池は鉛ベースのペロブスカイトを使用しているため、鉛の毒性が問題視されることからスズベースのペロブスカイトが代替材料として期待されている。しかし、スズが大気中で酸化されやすいことによる不安定性が原因となり、変換効率は鉛ベースのペロブスカイト太陽電池を下回っている。スズペロブスカイトの欠陥について詳しく調べることは、欠陥抑制への知見を深めることにつながる。 これまでにSn-PVK合成法の検討を行い、XRDやSEMを用いた試料評価により結晶性の良いSn-PVKの作成方法を確立した。2年目に研究代表者は異動のため、実験装置、並列計算機の移設を余儀なくされたが、本研究課題の研究費支援のおかげで迅速に研究環境の再構築を行うことができた。そこで本年度は、第一原理計算およびX線吸収微細構造(XAFS)を利用して、スズペロブスカイトの欠陥について調査することを目的とした。化学式ABX3で表されるペロブスカイト構造において、AサイトはCH3NH3+(MA+)、BサイトはSn2+、XサイトはCl-、Br-、I-で、それぞれ全置換した構造における欠陥形成エネルギーを第一原理計算により求めた。また、物質の局所構造についての情報が得られるXAFSの測定、およびX線吸収端近傍構造(XANES)の理論計算を行い、Xサイトをそれぞれ全置換したペロブスカイトについて局所構造解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MASnX3(X=Cl、Br、I)の欠陥形成エネルギーを計算した。VCl (VBr、VI)、Sni、VSn、Cli (Bri、Ii)は欠陥の種類を表しており、それぞれCl空孔(Br空孔、I空孔)、格子間Sn、Sn欠陥、格子間Cl(格子間Br、格子間I)である。いずれも、Sn空孔と格子間Cl、Br、Iの形成エネルギーが低く安定であることが明らかとなった。つまり、これらの欠陥を形成しやすいということになる。また、格子間Clおよび格子間BrについてはMASnI3と異なりSn空孔よりも形成エネルギーが低い値を示した。このことからMASnI3においてはSn空孔が最も入りやすく、MASnCl3およびMASnBr3においては格子間Cl、格子間Brが最も入りやすいことがわかった。しかし、いくつかの先行研究では本研究の結果と異なる結果が得られていることから、Sn空孔よりも格子間原子の形成エネルギーが低くなるという結果の妥当性については、さらなる検討が必要であると考えている。 MASnX3のXANESスペクトルの実験値および理論値を比較したところ、XANES理論スペクトルは実験スペクトルの形状を再現した。XAFSデータの解析では、MASnX3の結晶構造をフィッティングした結果、元の構造モデルから大きなずれは確認できず、欠陥構造を実験的に確認することはできなかった。より詳細な局所構造解析を行うためには、今後、欠陥形成エネルギー計算などにより考えうる欠陥構造モデルを作成し、XAFS理論計算を行う必要があると考える。また、MASnBr3の合成に使用したSnBr2のXAFS解析から、SnBr2中のスズが一部4価に変化している可能性が示唆された。ペロブスカイトおよび理論スペクトル合成の際に、スズの酸化を防ぐことに十分に注意する必要があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、九州大学筑紫キャンパスに設置されている透過型電子顕微鏡を最大限に活用してSn-PVKの欠陥構造の解明に取り組む.本課題遂行に強力な手法として注目しているプリセッション電子回折法は、ナノスケールの結晶方位分布を明らかにする事ができるもので、筑紫キャンパスにはこれを行うことができる共用の電子顕微鏡が設置されている国内で数少ない研究拠点である.そこでSn-PVKとPb-PVKとの光電変換効率の違いを結晶方位分布のナノスケールにおける違いから詳細に調査する。TEM用試料作成と観察に必要となる特殊なTEM用グリッドについては既に購入しており、その使用方法について前年度に調査済みである.今年度はこのグリッドを用いてTEM観察試料を作成し、Sn-PVKとPb-PVKとの結晶方位分布の違いに注目して研究を進める.これにより光電変換効率向上のための指針を得る. またSn-PVKの変換効率が低い原因として、Snが大気中で容易にSn2+からSn4+に酸化され、それにより形成されたSn空孔がトラップ密度を高め変換効率を低下させているのではないかと考えられている。昨年度、MASnX3(X=Cl、Br、I)のXサイトの違いによる欠陥形成エネルギーを評価した結果、Sn空孔と格子間Cl、Br、Iの形成エネルギーが低く、安定であることがわかった。特に、MASnI3はSn空孔の形成エネルギーが最も低く、MASnCl3、MASnBr3ではそれぞれ格子間Cl、格子間Brの形成エネルギーが最も低い値を示し、この違いは興味深いと考えている。しかしながらいくつかの先行研究の結果と異なるため、MASnCl3、MASnBr3においてSn空孔よりも格子間原子の形成エネルギーが低くなるという結果の妥当性については、さらなる検討が必要であると考える。今年度はこの点についても電子状態計算により検討を進め、詳細を明らかにしたいと考えている。
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