研究課題
基盤研究(B)
CRISPR-Cas系は原核生物の獲得免疫系として機能する一方、一部のCRISPR-Cas系がトランスポゾンにコードされており、それと共同してDNAの転移を引き起こす。トランスポゾンと共役したCRISPR-Cas系がDNAの転移を誘導する方法としては、エフェクター複合体がcrRNAを利用して標的となるゲノム領域を特定した後、トランスポゼースが標的部位にリクルートされてドナーとなる配列を標的部位に挿入すると考えられているが、その詳細な分子機構は未解明である。本研究では、生化学的および構造生物学的な手法を用いて、トランスポゾンと共役したCRISPR-Cas系がDNAを転移するしくみを解明する。
CASTは、CRISPR-Casエフェクター(Cascade)とトランスポジションタンパク質(TnsA、TnsB、TnsC、TniQ)が共同してDNA上を転移するトランスポゾンである。本研究では、標的DNAと結合したTniQ-Cascadeを調製して、クライオ電顕単粒子解析により、複合体の構造を決定した。その結果、エフェクターとPAMとの相互作用機構が明らかになった。PAM配列に変異を導入した標的プラスミドを作製してDNA転移効率を測定し、TniQ-CascadeによるPAM配列の特異性が明らかになった。また、変異型TniQ-Cascadeを調製しDNA転移効率を定量PCRにより解析した。
Cas9を利用したゲノム編集では、細胞に備わっている相同組換え修復を利用して遺伝子をノックインする。一方、CASTはトランスポジションタンパク質の活性を利用してゲノムにDNAを挿入するため、既存のしくみとは全く異なる機構でゲノムを編集することができる。さらに、CASTは長鎖DNAをゲノムに挿入することが可能であるため、これまで困難であった大きな遺伝子を細胞のゲノムにノックインすることが可能になると考えられる。このように、CASTを利用することで既存のゲノム編集を凌駕する技術開発が期待できる。CASTの研究は、細菌における病原因子の伝達機構を理解する上でも重要であり、意義の大きな研究である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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