研究課題/領域番号 |
20H03421
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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研究分担者 |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (10366247)
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
大山 廣太郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員 (70632131)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 筋肉生理学 / 分子・病態生理学 / 病態生理 / 分子・細胞生理学 / 心臓 / 循環器 / ナノ計測 / イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、申請者が独自に創成した「心臓ナノ生理学」を「心臓ナノ医学」へ展開させる。先ず、マウスin vivo心臓各部位における心筋細胞の膜電位や細胞内Ca濃度の高速画像化と同時に、サルコメア動態を高空間・時間分解能で解明する。次に、心疾患モデルマウスにおいて「in vivo心筋興奮収縮連関」がどのように変化しているかを解析する。さらに、単一筋原線維のサルコメア動態を解析し、病態や重症度に関する定量的な診断基準を得る。最後に、赤外レーザー局所熱励起による低侵襲型心疾患治療デバイスの基盤技術を開発する。以上、心臓拍動機構のナノ解析を推進し、革新的な心疾患の診断・治療法の基盤技術の開発に挑む。
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研究実績の概要 |
2022年度、「細胞熱・力学」の観点から筋収縮のメカニズムを詳細に解析した。
Ⅰ)マウスin vivo心筋細胞における異なる2要素(例:サルコメアと細胞内Ca)の動態解析のため、顕微システムに改良を加えた。その上で、Z線に局在するACTN2に、Caセンサー蛍光タンパク質GCaMPを融合したアデノウイルスベクター「Ad-α-ACTN2-GCaMP」と橙色蛍光タンパク質を融合した「Ad-α-ACTN2-TagRFP」を心筋細胞に発現させる最適条件の検討を行った。これと並行し、Z線の標識効率を上げるため、時期特異的α-ACTN2-AcGFPノックイン(KI)マウスの作製に着手した。 Ⅱ)心不全の治療に強心薬が使われるが、細胞内Ca濃度を上昇させることで不整脈を惹起するという難点がある。開発中の強心薬であるomecamtiv mecarbil(OM)は、細胞内Caを上昇させずにアクトミオシン相互作用を促進させる「ミオシン活性化薬」として期待されている。申請者らは、ブタ心筋のスキンドファイバーを用い、OMが結合したミオシンは強結合クロスブリッジとして作用すること、すなわち、細いフィラメントを協同的に活性化させることで、間接的に周辺のミオシンの細いフィラメントへの結合を促すことを明らかにした。 Ⅲ)全身麻酔時に高体温になる悪性高熱症(MH)について検討を行った。すなわち、骨格筋の筋小胞体に発現するCaチャネルであるリアノジン受容体に遺伝的な変異が入ると、加温によってチャネルが開口することで細胞内にCaが放出され、細胞内の局所温度が上昇するという新しい現象を見出した。これを「熱誘発性Ca放出」と名付けた。また、MHモデルマウスの骨格筋細胞のCa動態とサルコメアの短縮を明らかにし、吸入麻酔薬の投与によってMHモデルマウスの骨格筋の温度が上昇することを単一細胞レベルで可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ⅰ)2021年度の研究において申請者は、in vivoマウス心筋細胞内のサルコメア動態を最新の蛍光顕微装置によって詳細に解析し、各々のサルコメアの同調率は正常時で約30%であること、そして、筋原線維を通して個々のサルコメアにわたる力学的エネルギー配分機構(distal intersarcomere interaction)が存在し、それによってサルコメア動態が平滑化されることを報告している(J Gen Physiol 2021)。2022年度の研究において、in vivoマウス心筋細胞におけるサルコメア長とCa濃度の同時イメージングの最適条件を見出した。申請者は、培養心筋細胞レベルの実験において、興奮収縮連関を単一サルコメアレベルレベルで観察するシステムの構築に成功している(J Gen Physiol 2014, 2016)。2022年度に得られた知見は、生理的条件下で拍動しているin vivoマウスの心筋細胞において興奮収縮連関を単一サルコメアレベルレベルで解析することを可能にするものであり、当該分野への貢献は大きいと考えられる。 Ⅱ)OMは次世代型の新規強心薬であるが、「ミオシン活性化薬」以上のメカニズムは明らかにされていかなった。現在開発中であり、かつ、世界的に期待されている薬剤のメカニズムを、細いフィラメントの役割に焦点を当てて解き明かした意義は基礎科学のみならず臨床的見地からも大きいと考えられる。 Ⅲ)本研究の主題は心筋であるが、研究を進める上で用いる高精度顕微システムを駆使することによって、「細胞熱・力学」という独自の観点からMHの分子メカニズムに迫ることが出来た意義は大きい。ここで用いた実験手法は心筋研究にも応用可能であり、2023年度の研究に利用する予定である。
以上より、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の研究を遂行する。
Ⅰ)申請者らは、in vivoマウス心筋細胞の筋原線維にわたる力学的な力によって、サルコメアの秩序正しい動きがもたらされていることを明らかにしている(J Gen Physiol 2021)。2023年度、GFPがZ線に発現しているKIマウスを用いて心臓各部のサルコメア動態を計測し、秩序正しい拍動が生み出される仕組みを明らかにする。 Ⅱ)2022年度に開発したサルコメアと細胞内Caの同時計測技術を肥大型心筋症や拡張型心筋症、あるいは虚血性心疾患のモデルマウスに適用し、心筋細胞内局所のサルコメア動態とCa濃度との関係にどのような変化が生じているかをナノスケールで検討する。 Ⅲ)申請者らは、体温付近では弛緩時においても心筋サルコメアの細いフィラメントが部分活性状態にあることや(J Gen Physiol 2019; Front Physiol 2020)、体温よりわずか2~3℃高い条件において心筋細胞がCa非依存性の収縮を示すことを報告している(BBRC 2012)。申請者らは最近、細いフィラメントのみならず、太いフィラメントも心筋収縮のON-OFF制御に寄与していることを見出した(Front Physiol 2022)。したがって、「熱刺激収縮」の分子メカニズムを、細いフィラメントの側からのみならず、太いフィラメントの側からも明らかにする。次に、赤外レーザーパルス操作を駆使し、マウスin vivo心臓のどの部位にどの程度の範囲と強度でレーザーを照射すれば効率良く心筋サルコメアの収縮性が向上するか、心臓内圧を上昇させることができるかを検討する。 Ⅳ)Ⅱ)に記したin vivo虚血マウスにⅢ)のレーザー照射を適用し、加温によって虚血やその周辺部位のサルコメア、そして心筋細胞の動的挙動がどのように改善するかを検討する。臨床応用に向け、レーザー照射の最適条件を探る。
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