研究課題/領域番号 |
20H03525
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 善則 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30182108)
|
研究分担者 |
伊東 剛 東京大学, 医科学研究所, 助教 (20733075)
松原 大祐 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80415554)
冨谷 智明 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (90227637)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
15,730千円 (直接経費: 12,100千円、間接経費: 3,630千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
|
キーワード | 免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質 / 小細胞肺がん / 神経内分泌腫瘍 / 消化器がん / 肺がん / がん浸潤・転移 / 薬剤耐性 / 免疫チェックポイント / 分子間結合 / 免疫グロブリンスーパーファミリ― / 浸潤、転移 / 免疫グロブリンスーパーファミリー |
研究開始時の研究の概要 |
固形がんの主たる死因となる腫瘍形成、浸潤、転移、薬剤耐性を克服するために、がん細胞と周囲組織との相互作用の異常の実態を分子生物学的、病理学的に解明し、分子機構の理解を基盤として新規診断、治療、耐性克服、腫瘍免疫法の開発、確立を目指す。このために、多様性、選択性に富む結合を形成し、がん細胞と周囲組織の接着の鍵となるIgSF分子群を標的として以下の解析を行う。 1.小細胞肺がんの新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発 2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克法の開発 3.ヒトIgSF分子群の網羅的解析による新規免疫チェックポイント、転移制御因子の解析
|
研究実績の概要 |
がんの浸潤、転移の克服、腫瘍免疫治療の拡大を目的に、免疫グロブリン・スーパーファミリー (IgSF) 細胞接着分子群を介するがん細胞と間質細胞の相互作用の実態と病理学的意義の解明、新規結合分子対の同定を目指して解析を行った。 1.小細胞肺がん(SCLC)の接着分子特性に基づく新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発:R3年度までにSCLCと精巣で発現する細胞接着分子CADM1v8/9バリアント産物が酵素切断を受けて血中に遊離することから、CADM1v8/9切断断片の特異抗体、抗O-型糖鎖特異抗体を作成し、SCLC患者血清でCADM1v8/9 断片を高感度、高特異度で検出するELISA系を構築した。本年度は種々の腫瘍、肺疾患、炎症性疾患患者の血清を網羅的に検索し、両抗体による感度・特異度向上を確認した。続いてSCLCで、CADM1v8/9断片陽性と、リンパ節転移・肝転移との相関を示し、企業と共同で抗CADM1抗体・薬物複合体を試作し、SCLC細胞で強い殺細胞効果を得た。 2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克服 :T細胞リンパ腫、SCLC細胞で過剰発現すCADM1と血管内皮のCADM1のホモ結合が肝臓への転移形成を亢進することをマウスモデルで示した。またSCLC細胞でもCADM1が脳や骨転移ではなく、肝転移を強く亢進することをマウスモデルで示した。 3.ヒト IgSF 389 分子の網羅的解析による新規免疫チェックポイント、転移制御因子の解析:多数のヒトIgSF分子群をクローニングし、物理化学的手法による結合活性を網羅的に解析し、新規免疫チェックポイントに関わるIgSF 分子対を2対以上同定し、NK細胞を介する免疫チェックポイント候補分子対について、細胞での腫瘍免疫抑制能を示し、特許出願を東大LO社と合意して準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
IgSF分子によるがん診断の研究では、CADM1v8/9バリアント断片、そのO-型糖鎖を標的とした抗体を作成し、小細胞肺がん(SCLC)を感度56%以上、特異度87% で検出可能な診断系を開発できた。両抗体による解析は単独抗体よりも感度、特異度で勝り予想以上であった。特に、CADM1v8/9断片陽性例が肝転移、胸水貯留と相関することは、SCLC治療方針の決定にも重要であり、既存マーカーProGRP、NSEでは得られない特徴であり、予想以上の付加価値のある診断系である。 一方、IgSF分子によるがんの治療の研究では、前年度に大手製薬企業とMTAを締結してCADM1の高親和性抗体との抗体薬物複合体を作成し、SCLCの治療薬開発を目指す研究に着手し、今年度、in vitro において強い殺細胞効果をSCLCに対して認めたことは予想を上回る成果であった。 また、がん細胞と血管内皮細胞の両者に発現するCADM1の相互作用ががん細胞の肝転移に必須であることを、前年度のT細胞リンパ腫に続いて、今年度SCLCでもマウスモデルで示すことができた。ヒトでもCADM1v8/9断片陽性症例が脳転移や骨転移ではなく、肝転移に重要であることが示され、がんの転移の臓器向性に、IgSFを介する接着が関与する可能性が見出されたことは意義深く、これも予想以上の結果である。 さらに、免疫チェックポイント候補分子対の同定と、阻害抗体の作成によって、特許出願の運びになったこと(正式出願は2023年5-6月を予定している)も予想以上の進展となった。
|
今後の研究の推進方策 |
1.小細胞肺がんの接着分子特性に基づく新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発: 診断においては、CADM1v8/9を標的とする2つのSCLC新規診断用血清マーカーのELISAの感度の向上を図り、既存のProGRP, NSE との差別化を図り実用化を目指す。予備的に見出したB型肝炎、肝がんにおけるCADM1の発現亢進の実態と意義をヒト症例を用いた解明する。治療においては、抗CADM1抗体・薬物複合体の抗腫瘍効果をマウスモデルで確認し、大手製薬企業と共同で開発を継続する。 2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克服 予備的に見出しているCADM1とチロシンキナーゼ受容体との新規複合体形成を解析し、CADM1の投与が、当該チロシンキナーゼ受容体を阻害する分子標的薬の耐性獲得を抑制するか否かを検討し、IgSF分子群が、チロシンキナーゼなどの細胞増殖シグナルを抑制する機能の一般化を図る。また、がん転移における癌細胞と血管内皮細胞のIgSF分子間結合の意義の解明を継続するとともに、これらの分子群の遺伝子多型による疾患との関連解析を既存のデータベースを利用しながら検討する。 3.ヒト IgSF 389 分子の網羅的解析による新規免疫チェックポイント、転移制御因子の解析 多数のヒトIgSF分子群をクローニングし、物理化学的手法による結合活性を網羅的に解析することにより同定した、新規免疫チェックポイントに関わるIgSF 分子対の腫瘍免疫における意義を、in vitro 並びにマウスを用いた機能解析により明らかにする。また、がん転移に関わる新規IgSF分子群をR4年度に同定しており、その病理学的意義を解明する。
|