研究課題/領域番号 |
20H03569
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
|
研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
高田 和幸 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (10434664)
|
研究分担者 |
石原 慶一 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (80340446)
西村 周泰 同志社大学, 脳科学研究科, 准教授 (90527889)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2020年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
|
キーワード | ミクログリア / 脳内免疫環境 / アルツハイマー病 / 老化 / 病態 / アミロイドβ / オルガノイド / 生薬成分 / 神経保護 / 化合物 / イメージング / 貪食 / 疾患関連ミクログリア / 多様性 / ヒト人工多能性幹細胞 / 線条体 / TGF-β1 / 造血幹細胞 / 移植 / Smad2/3 |
研究開始時の研究の概要 |
人口高齢化にともないアルツハイマー病の一刻も早い根本的治療法の開発が待れる。しかし、その病態形成機序は未だ不明であり、発症の引き金とされるアミロイドβ(Aβ)の脳内蓄積の先にある脳内環境変化に注目する必要がある。我々は独自の研究のもと、Aβがもたらす脳内免疫環境の変化が認知機能の変動に同期することを見出している。本研究では、時間的、空間的、病態的要素を含めて脳免疫担当細胞ミクログリアの性質変化を総合的に解析して脳内免疫環境の変化を捉え、認知機能との連動機序を見出すことでアルツハイマー病の病態解明と真に有効な新規治療法の開発を目指す。
|
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の発症機序として、脳内でのアミロイドβ(Aβ)の蓄積が原因であると考えられている。特にAβの低分子量複合体(オリゴマー)が神経毒性を示す本体として捉えられており、これはオリゴマー仮説と呼ばれている。一方、アルツハイマー病でのマイネルト基底核から大脳全体に投射するコリン作動性神経が極早期に障害されることもアルツハイマー病の特徴とされており、これをコリン仮説という。しかしながら、極めて高い凝集性の高いAβはオリゴマー状態を経てすぐにAβ繊維へと高度に凝集することから、安定的なオリゴマーの解析を難しくし、また、ヒトコリン作動性神経の入手は困難なことから、これらの仮説を取り入れたアルツハイマー病の適切なモデル系はなく、以てこれらの仮説も証明されていない。 本研究では、ヒトiPS細胞を用いてヒトコリン作動性神経を作製し、isoAβと呼ばれる中性条件で初めて凝集を開始するAβを用いることで安定的なAβオリゴマー誘発ヒトコリン作動性神経細胞死モデルを構築した。また、isoAβからAβオリゴマーを作製して、分離ビーズと結合させることで生薬成分からAβオリゴマーに結合性を示すPlantinoside Bを単離し、その神経保護メカニズムや記憶障害改善作用を見出し、さらに放射線同位体を結合させて脳切片上のAβを検出できることを見出した。アルツハイマー病の診断と治療を可能とするセラノスティクスの開発に向けたシード研究としてさらなる発展が期待される。 さらに、本年度は、神経保護や脳内免疫担当細胞ミクログリアの機能制御に深く関与するニコチン受容体をターゲットとしたアルツハイマー病の診断や治療への応用について近年の知見をまとめ、総説として報告した。また、脳免疫を解析できるヒト脳オルガノイドモデルの作製を進めており、特にアルツハイマー病研究への応用に向けた解析を実施している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度において、アルツハイマー病のオリゴマー仮説やコリン仮説に根差した細胞死モデルを構築することができ、さらに生薬成分から神経保護作用やアルツハイマー病の診断にも応用が期待される低分子量化合物を見出すことができた。また、脳免疫を解析することのできる脳オルガノイドの作製にも着手しており、良好な結果を得ていることから、これらのモデル系やシード化合物を駆使して脳内免疫環境を解析することで、アルツハイマー病への治療や診断を目指した基盤研究としての成果が見込まれる。 一方では、ミクログリアやニコチン受容体について近年の知見をまとめて総説とした成果を踏まえ、ミクログリアの機能制御についてさらなる解析を進めており、特にニコチン受容体のα7サブタイプのフルアゴニストがミクログリアの機能に影響して、神経細胞とのインタラクションを変化させる機能を有することを見出している。この変化について網羅的遺伝子解析を実施して解析していることから、より具体的な分子をターゲットして、α7ニコチン受容体の活性化を介したミクログリアの機能変化を捉えることができると予想している。 さらに、ニコチン受容体がミクログリアの発生過程にも影響することで、神経細胞の発達を制御する知見が得られており、その責任ニコチン受容体サブタイプの同定もほぼ終了している。上述のように本研究を支えるモデル系の構築が完了しており、より具体的な分子を捉える実験が着実に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Cas9システムにより、ヒトiPS細胞において網羅的にニコチン受容体サブユニットのノックアウト細胞株を作製し、iPS細胞由来ミクログリアの発生や機能に影響を生じさせる責任サブユニットを同定する。またその機能不全ミクログリアを脳免疫の機能不全と捉えて、これまでに構築した脳オルガノイドに導入し、神経細胞の発達や機能への影響を解析する。その手法として、RNAseq、ライトシート顕微鏡ほか最新の技術を使用した解析を実施する。また、妊娠マウスへのニコチン受容体関連試薬を投与することで、胎仔脳を解析し、ミクログリアの数や機能への影響を解析して、脳免疫の変化がどのように神経細胞へ影響するのか解析する。これはアルツハイマー病のみならず、脳発達に関わる脳疾患(自閉症やダウン症)に対する研究として応用できると考えられ、さらなる研究成果への発展が期待できる。また、iPS細胞由来ミクログリアにニコチン関連試薬を処置して、ミクログリアそのものの機能変化や、脳オルガノイドにAβを処置することで構築した神経変性解析モデルとの組み合わせにより、ミクログリアのニコチン受容体活性制御による脳免疫の機能変化を介した神経保護作用を解析する。
|