研究課題/領域番号 |
20H03644
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
花田 俊勝 大分大学, 医学部, 教授 (10363350)
|
研究分担者 |
花田 礼子 大分大学, 医学部, 教授 (00343707)
西田 欣広 大分大学, 医学部, 准教授 (10336274)
疋田 貴俊 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (70421378)
井原 健二 大分大学, 医学部, 教授 (80294932)
白石 裕士 大分大学, 医学部, 准教授 (80452837)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
12,610千円 (直接経費: 9,700千円、間接経費: 2,910千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2020年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
|
キーワード | 希少難治性疾患 / 遺伝子改変動物 / ゼブラフィッシュ / ゲノム編集 / 難治性希少疾患 / 小頭症 / ANKLE2 / VRK1 / マウス / RNA代謝 / 疾患モデル動物 / 希少遺伝性疾患 / 遺伝性希少疾患 / RNAエキソソーム / EXOSC2 / LARS |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、小児難治性疾患の中で特にRNA制御機構の調節異常に関連して発症する希少疾患の動物モデル作製と、その病態形成機構を明らかにするものである。近年におけるシークエンス技術の発達により、多くの疾患発症の原因と考えられる遺伝子変異が見出されている。それが疾患発症の直接的原因であるか否かの検証には疾患モデル動物の作製が極めて強力なアプローチとなるが、現状ではその観点からの研究は未だ十分とは言えない。本研究では、動物モデルとしてゼブラフィッシュとマウスを用い、各々の利点を活かした疾患モデルの作製を行った上で原因遺伝子と疾患との関連性を検証し、病態形成機構の解析から治療標的分子の同定を行う。
|
研究実績の概要 |
今年度は、RNAウイルスであるZikaウイルスの分子標的であるANKLE2についてゼブラフィッシュモデルを用いて研究を行った。ANKLE2は、有糸分裂中に核膜の形成を促進する分子BAFのリン酸化に関与する分子である。有糸分裂の際にBAFがリン酸化されると、核膜の分解が生じ、続く細胞分裂につながる。一方で、有糸分裂終了時には逆にBAFの脱リン酸化が生じ、核膜の再形成が行われる。BAFのリン酸化にはVRK1が働き、BAFの脱リン酸化にはANKLE2が働く。このVRK1とANKLE2のBAFに対するリン酸化のバランスは、細胞分裂時の核膜形成に重要であると考えられている。ANKLE2とVRK1の遺伝子変異は、先天性の小頭症であるMCPH16(常染色体劣性遺伝性原発性小頭症16)やPCH1A(脳橋小脳低形成1A)の原因であることが報告されている。また、ジカウイルスのNS4aタンパク質は、ANKLE2の機能を阻害することにより小頭症をひきおこす。本研究では、ANKLE2欠損ゼブラフィッシュモデルを作製し、ANKLE2変異に関連する疾患の発症機序について研究を行った。ANKLE2欠損ゼブラフィッシュの脳では、神経幹細胞の数が減少し小頭症様の表現型を示した。また電子顕微鏡において一部神経細胞において核膜の喪失を確認した。さらに、ANKLE2欠損ゼブラフィッシュは精子形成障害により不妊となることがわかった。これはZikaウイルス感染症が成人男性に対し不妊症をおこすことと一致する表現型である。分子機序として、VRK1のheterozygous deletionにより、ANKLE2欠損ゼブラフィッシュの小頭症および精子形成が回復することから、ANKLE2とVRK1のバランス破綻が先天性小頭症の原因になることを明らかにした(Sebastian et.al., BBRC)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、Nonsense-mediated mRNA decayの機構に関与しheart and brain malformation syndrome(HBMS)の原因遺伝子であるSMG8およびSMG9(heart and brain malformation syndrome: HBMS)の解析を進めている。また、小児肝不全の原因となるロイシンtRNA合成酵素LARSのヒト遺伝子変異を模倣したノックインゼブラフィッシュを作製した。さらにRNA代謝以外の先天性希少疾患に関与する以下の遺伝子についても遺伝子改変ゼブラフィッシュモデルを作製して解析を進めている。MTM1(X連鎖性ミオチューブラーミオパチー)、DHCR7(Smith-Lemli-Opitz 症候群)、NHLRC2(fibrosis, neurodegeneration, and cerebral angiomatosis : FINCA)、ATP6V1B1(遺伝性遠位尿細管性アシドーシス)。MTM1はX連鎖性ミオチューブラーミオパチーの原因遺伝子であり運動障害を呈するが、肝紫斑病による大量出血が予後を左右する重大な合併症である。これまでその原因は不明であったが、我々はゼブラフィッシュモデルの透明性というメリットを生かして、MTM1遺伝子改変ゼブラフィッシュの肝臓の発生を詳細に解析し、疾患発症の手がかりを得た。今後、さらに解析を進める。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、現在手がけている先天性疾患の原因遺伝子を改変したゼブラフィッシュモデルの解析を進め、病態メカニズムの解明を目指す。特に、HBMSの原因遺伝子であるSMG9に注力する予定である。Nonsense-mediated mRNA decay (NMD)は、中途半端な翻訳終止コドン(PTC)を持つ異常なmRNAを選択的に分解するmRNAの品質管理機構であるが、SMG9はNMDに関与する分子であり、SMG1、UPF1、eRF1、およびeRF3から構成される監視複合体SURFと共に、PTCを認識する。SMG9の遺伝子変異は、先天的な脳や心臓の奇形を引き起こす。SMG9は、SMG1のキナーゼ活性を抑制することでNMDを負に制御していると考えられているが、その病態メカニズムは不明である。これまでSMG9遺伝子欠損マウスの報告がなされているが、胎生致死のため詳細な解析が不可能である。今回、SMG9遺伝子欠損ゼブラフィッシュを作製したところ、成魚まで成長可能であり詳細な解析が可能となった。このフィッシュはヒトHBMSと非常によく似た病態を示し、脳の発生異常と心臓の機能異常を示した。さらに興味深いことに早老の表現型を示した。本モデルは、NMD機構と老化とを結びつけるin vivo脊椎動物モデルとして非常に有用である可能性がある。小児肝不全の原因であるロイシンtRNA合成酵素LARSのヒト遺伝子変異を模倣したノックインゼブラフィッシュを作製し解析を進める。ヒト疾患に比べて症状は軽いものの明らかに肝臓の増大と脂肪変性を認めた。その原因として、オートファジーの過剰な活性化が生じていることを見出している。今年度、さらにその病態分子機構を解明する。同時に、これらのゼブラフィッシュ疾患モデルを用いて低分子化合物ライブラリーのスクリーニングを進めて創薬につながるリード化合物の発見を目指す。
|