研究課題/領域番号 |
20H03708
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54010:血液および腫瘍内科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
正本 庸介 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (30706974)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 急性骨髄性白血病 |
研究開始時の研究の概要 |
急性骨髄性白血病(AML)は代表的な難治性造血器腫瘍で、高率な再発が治癒の障壁となっており、白血病幹細胞が難治化・治療抵抗性・再発の主な原因と考えられている。申請者らが作成したAML細胞は、正常造血幹細胞に類似した性質を持つ細胞であり、白血病幹細胞活性は低いものの、進行が早く化学療法抵抗性の高いAMLを起こし、ヒトにおける難治性病態のモデルになると考えられる。本研究においては、造血幹細胞様AML細胞を顆粒球・単球前駆細胞様のAML細胞や正常造血幹細胞と比較することによって、難治性AML細胞の特徴、その性質の分子基盤、治療標的を明らかにすることを目標とする。
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研究実績の概要 |
MLL-ENL融合遺伝子をレトロウィルスでEVI1-GFPノックインマウスのHSCに導入して作製したマウスAMLモデルで、白血病幹細胞活性の高いL-GMP分画のうち、GFP陽性(HSC様AML細胞を含む)、GFP陰性(GMP様AML細胞)を回収し、RNA-seqにより遺伝子発現パターンを比較した。我々はHSC様AML細胞の特徴として、難治性AMLを惹起すること、幹細胞活性が低いことを示したが、RNA-seq解析でも既知の白血病幹細胞維持に関わるNF-κB経路に関連した遺伝子群のほか、化学療法耐性関連および血球分化関連遺伝子の発現変動が示され、表現型と合致した。しかしマウス個体によるL-GMP分画構成の不均一性を反映してか、発現変動経路については個体差が大きく、ここからHSC様AML細胞の標的経路を絞り込むのは困難だった。そこでHSC様の遺伝子発現パターンを呈する難治性AMLの代表的病型として知られているEVI1高発現AMLのモデルを使用することにし、EVI1高発現AMLモデルマウスの細胞を用いて実施した、下流標的に関するChIP-seq, RNA-seqの結果と照合した。このように複数のモデルのHSC様AML細胞に共通した転写プロフィールの特徴として、意外なことにサイトカイン産生、JAK/STAT経路、TLR経路などの免疫系に含まれるパスウェイが多く含まれていた。またEVI1高発現AML細胞の生存に必須な因子として同定したcyclin D1が制御する下流のパスウェイとして抽出されたのがIFN-γの伝達経路であったことから、HSC様AML細胞の特徴として制御されるパスウェイとして免疫系シグナル伝達経路に注目した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MLL-ENL融合遺伝子をEVI1-GFPノックインマウスのHSCに導入してマウスAMLモデルを作成した。白血病幹細胞活性の高いL-GMP分画のうち、GFP陽性(HSC様AML細胞を含む)、GFP陰性(GMP様AML細胞)を回収し、RNA-seqにより遺伝子発現パターンを比較した。我々はGFP陽性分画が、①移植により悪性度の高いAMLを起こすこと、②化学療法後に残存すること、③予想に反して幹細胞活性が高くないこと、を明らかにしたが、RNA-seq解析でもこれを支持する結果を得た。すなわちGFP陽性分画では既知の白血病幹細胞維持に関わるNF-κB経路のほか、化学療法耐性関連および血球分化関連遺伝子が高発現していた。 ここで示したGFP陽性のHSC様AML細胞の性質は、AMLの難治化に直結すると考えられたため、HSC様AML細胞に特異的な遺伝子・遺伝子群を明らかにすることを試みたが、個体差が大きく、ここから新規の標的経路を絞り込むのは困難だった。そこでHSC様遺伝子発現パターンを呈する別のマウスAMLモデルとして、我々の作製したEVI1高発現AMLモデルマウスの細胞を用いて解析を行った。幹細胞関連遺伝子EVI1が制御に関与する遺伝子を、ChIP-seq、RNA-seqを用いて網羅的に明らかにした。2つのAMLモデルの結果をもとに、ETS転写因子ファミリー転写因子ERGとサイクリン遺伝子を、HSC様AML細胞における特異的な発現遺伝子の候補として同定した。これらの遺伝子をノックダウンすることによって、MLL-ENL AMLモデルをin vitroおよびin vivoで抑制することが明らかになった。網羅的遺伝子発現解析の結果を用いたパスウェイ解析により、HSC様AMLを特徴づけるシグナル経路の候補が得られており、当初の想定とは別の方向ではあるものの、おおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
本来抗腫瘍免疫に作用するIFN-γ経路に関連する遺伝子がAML細胞で高発現していたため、IFN-γ受容体(IFNGR)およびIFN-γシグナル伝達においてハブとなるシグナル伝達分子STAT1を遺伝学的にサイレンシングしたところ、EVI1-AMLの系においてAML再構築能の低下および脾臓に浸潤するリンパ球の疲弊形質の軽減が見られた。そこでIFN-γ経路を初めとする炎症シグナルの亢進がHSC様AMLを特徴づけているのではないかと考え、IFN-γ経路およびSTAT1における機能、および治療標的としての有用性を検証することにした。 IFN-γの産生源を明らかにする。IFN-γの産生源としてT細胞・NK細胞などのエフェクター細胞が主に想定されるものの、AML細胞からのIFN-γ産生も最近報告されている。IFNGノックアウトマウスをドナー・レシピエントとしてそれぞれ用いてMLL転座型を含む様々なAMLモデルマウスを作成し、白血病原性、白血病幹細胞の性質、浸潤する免疫細胞の性質を、表面抗原、RNA-seqなどにより解析し、細胞間ネットワーク解析を行う。またIFN-γ受容体および血球特異的STAT1ノックアウトマウス由来の血液細胞を用いてAMLモデルを作製し、同様の解析を行い、HSC様AMLを特徴づける免疫病態の特徴を記述する。 AMLモデルマウスに対してIFN-γに対する中和抗体を投与して、治療標的としての有用性を検証する。またHSC様AML細胞を特徴づける性質で、IFN-γ、STAT1の下流で制御される要素を明らかにするため、IFN-γ経路を制御してAMLとしての性質が変化したAML細胞を用いて、RNA-seq, ATAC-seqなどの網羅的解析を行う。この中からdruggableな因子に注目し、HSC様AML細胞に対する薬物による治療の標的を探索する。
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