研究課題/領域番号 |
20H04338
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
横谷 明徳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 専門業務員 (10354987)
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研究分担者 |
黒川 悠索 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 研究員 (30590731)
鵜飼 正敏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80192508)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2020年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | ハロゲン化DNA / 放射線DNA損傷 / 電子状態 / シンクロトロン放射 / 光電子分光 / DNA損傷 / 放射線増感 / 光電子分光測定 / 量子化学計算 / SAC-CI理論 / ハートリー・ホック法 / DNA電子状態 / 放射線増感効果 / ハロゲン化DNA塩基 / シンクロトロンX線 / 価電子帯 / バンドギャップ / 放射線 / 軟X線分光 / 放射線照射効果 / X線光電子分光 / 発光分光 |
研究開始時の研究の概要 |
突然変異等など放射線による遺伝的変異の主要な要因であるDNAの分子損傷のメカニズムを、物理化学的観点から解明する。このため、DNAの電子状態に焦点を当て、ミクロな世界を支配する量子的性質と分子損傷の相関を実験と理論の両面から探る。特にハロゲンなど重い元素をDNAに取り込ませた生体に現れる高い放射線感受性のメカニズムを解明し、量子的観点から放射線増感剤の効果を制御するための技術開発に資する知見を得る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、ハロゲン化DNAを有する細胞の放射線増感メカニズムがハロゲン近傍のDNAの局所の電子物性変化という量子事象に根差している可能性を探る点にある。昨年度まで測定対象としてきたBrを含むDNA塩基(BrU)とそのヌクレオシド(BrdU)とヌクレオチド(BrdUMP)、フッ化ウラシル(FU)、塩化ウラシル(ClU)、ヨウ化ウラシル(IU)、およびハロゲンを含まないウラシル(U)の各塩基に加え、新たにフッ化ヌクレオシドのフルオデオキシウリジン(FdU)及びヌクレオチドのフルオデオキシウリジン1リン酸(FdUMP)を対象とした光電子分光(XPS)測定を実施した。2及び2.5keVの単色X線を励起光として用い、塩基とヌクレオシドについてはペレット(直径10 mm、厚さ0.3 mm)、ヌクレオチドについては水溶液(約200mg/mL)を金属板上に滴下した後乾燥した薄膜を試料とし、高エネルギー加速器研究機構・放射光実験施設のBL-27AでXPS測定を行った。その結果、Brの場合と同様にフッ素(F)も価電子帯の結合エネルギーをUの2.5eVと比較し1.0eVまで小さくする影響を与えるものの、Brのほぼ0eVに比べその効果は小さいことが分かった。 一方SAC-IC理論による量子化学計算を実施し、実験データであるBrU及びチミン(T)の光電子スペクトルを極めて精度よく一致する結果を得たため、この成果を論文として出版した(Kurokawa et al. Chem. Phys. Lett. 2022)。またBrUに加えBrdU、BrdUMPの光電子分光測定結果についても、ハートリー・ホック法による分子軌道を量子化学計算した結果と比較し、その結果を論文として出版した(Hirato et al. Phys. Chem. Chem. Phys. 2023, in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はBrを含むDNA関連分子に対する光電子分光実験と量子化学計算の双方の結果を比較する論文2報を出版することができ、また他のハロゲン化DNA関連分子についても順調に実験結果の解析が進展しており、近日中に3報目の論文として投稿する予定である。これらは、研究が当初の予定通りの進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度であるため、より鎖状DNAの構造に近い分子として複数のヌクレオチドからなるポリマー分子を対象にした光電子分光計測を実施し、異なる塩基のヌクレオチドが分子全体の電子物性にどのように影響を与えるのかを調べる。一番短いDNA鎖のモデル分子として、例えば遺伝暗号を担うA、T、G、Cの4塩基の中でイオン化ポテンシャルが最も低いグアニンを選び、これとBrUからなるジヌクレオチド(BrdUpdG)を作成する。この分子のバンドギャップがさらに小さくなるのか?など、塩基配列(遺伝暗号)に依存するDNAの新しい電子物性に関する知見が得られると期待される。ハロゲン化DNAの電子物性からその放射線増感作用のメカニズムが解明できれば、臨床応用におけるより性能の良い分子設計が可能となり、極めて重要なインパクトを医療薬剤開発分野に与えることが期待される。電子物性という量子事象を扱う固体物理学のアプローチからの新しい薬剤の開発は、これまでにないユニークで新しいチャレンジである。
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