研究課題/領域番号 |
20H04379
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64040:自然共生システム関連
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 教授 (00387763)
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研究分担者 |
高橋 晃周 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (40413918)
細田 晃文 名城大学, 農学部, 准教授 (50434618)
富田 直樹 公益財団法人山階鳥類研究所, その他部局等, 研究員 (90619917)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2020年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | 海鳥 / 水銀 / 海洋汚染 / 沿岸 / ウミネコ / 低濃度汚染 / 高次捕食動物 / 水銀汚染 / 海洋生態系 / 沿岸域 / 安定同位体 / 生物濃縮 / ホットスポット / 窒素安定同位体 / 換羽 / モニタリング / 海洋ホットスポット |
研究開始時の研究の概要 |
UNEP世界水銀アセスメントによると,環境中への水銀の排出は全世界で1960トンもある.八戸市で繁殖するウミネコの水銀濃度が他地域のカモメ 属に比べ高いことや,ウミネコの水銀汚染が20年前から急激に進行していることから,海洋生態系の水銀汚染の影響は広範囲である懸念がある.本研究では,ウミネコを研究対象種とし,日本沿岸の複数のウミネコ繁殖地から親鳥の血液,羽根と餌生物を採集し,水銀汚染の影響を受けている範囲と程度を明らかにする.次に,窒素安定同位体比および水銀濃度の測定とバイオロギングの手法による移動軌跡の計測を組み合わせ,日本周辺海域で水銀汚染のホットスポットを特定する手法を開発する.
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研究実績の概要 |
海洋に排出された水銀は,海洋では微生物によって無機水銀から生物濃縮性が高く神経毒性を持つメチル水銀に変換される.魚等の食物を通じてメチル水銀の摂取により,たとえ低濃度の摂取であっても,ヒトでは胎児や幼児の神経の発達に影響するほど毒性が強いことが知られている.海洋生態系の高次捕食動物であるウミネコは魚類を主な餌生物とし,生物濃縮により有機水銀を蓄積する.そのため,水銀摂取によるウミネコの生態や生体への影響が懸念されている.生体への水銀蓄積の影響として,DNAの末端に位置するDNA-タンパク質複合体であるテロメアの短縮が注目されている.ウミネコの集団繁殖地である青森県八戸市の蕪島において,キツネやノネコなどの捕殺されただろう死亡個体を収集し解剖して体組織(肝臓,血液,大胸筋,生殖器)の水銀濃度測定とテロメア長の測定を行い,両者の関係を調べた.水銀濃度は加熱気化法により,テロメア長はリアルタイムPCR法により定量的に測定した.その結果,体組織の水銀蓄積濃度は,肝臓>血液>心臓>生殖器>大胸筋の順で高く,肝臓が他の体組織よりも高濃度であった.一方で,テロメア長では各組織間に有意な差はなかった.組織ごとの水銀蓄積濃度とテロメア長の関係を調べたところ,肝臓のみで有意な負の関係がみられた.肝臓の水銀蓄積量は血液循環により肝臓へ運ばれ,肝臓における水銀代謝のため高くなったのではと考えられる.また,肝臓において水銀代謝が行われ,その結果として酸化ストレスが高まり,テロメア長が短縮した可能性がある.テロメアはTTAGGGが繰り返される配列で,グアニン(G)が多くなる.そのグアニンは酸化ストレスを受けやすいとされている.水銀による酸化ストレスによりテロメア配列のグアニンが攻撃されテロメアを短縮させた可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は,日本沿岸で繁殖するウミネコを研究対象種とし,複数のウミネコ繁殖地から親鳥の血液,羽と餌生物を採集し,水銀汚染の実態を把握すること,ジオロケータを用いた移動軌跡から採食海域を特定し,水銀汚染ホットスポットを特定することである.しかし,昨年と同様にコロナウイルス感染症の収束の見通しが立たず,予定していた野外調査を縮小して実施した.その結果として,当初予定した計画はやや遅れることになった.ウミネコの移動経路を把握するため,21年度にジオロケータを装着したが,22年度の野外調査において,多くの個体の再捕獲ができず,移動奇跡の分析が遅れている.22年度においては,新潟県粟島,北海道天売島,青森県蕪島において,ウミネコにジオロケータを装着できたため,23年度の野外調査においてウミネコを再捕獲し,分析に必要なサンプルを採集する.これらにより,太平洋や日本海沿岸におけるウミネコの移動軌跡および血液,羽の水銀濃度と窒素安定同位体比の情報を得ることができる.コロナウイルス感染症の中,野外調査を縮小して実施しているため,当初の計画を修正し,繁殖地内でキツネやノネコなどの捕食者により捕殺されたウミネコを回収し,水銀摂取による生体への影響として,テロメア長短縮を調べた.その結果,生体内での水銀蓄積は肝臓において高く,水銀濃度が高いほどテロメアの短縮が大きいことが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの野外調査においてジオロケータを装着したウミネコを再捕獲し,ジオロケータの回収と分析に必要なサンプルを採集する.回収したジオロケータのデータをダウンロードし,ウミネコの年間の移動軌跡の解析を行い,越冬期における採食海域の特定を進める.ジオロケータを回収する際に,ウミネコの吐き戻し,血液と各種羽を回収し,それらの水銀濃度と窒素安定同位体比を測定する.吐き戻しについては,DNA分析により餌生物種を同定する.これらにより,どの餌生物から水銀を摂取しているのかを特定する.また,ジオロケータを装着した調査地である粟島,天売島,蕪島のほかに,できるだけ広範囲となるようにウミネコ繁殖地で調査を実施し,サンプルを集め,繁殖地間での水銀汚染の実態を把握する.
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