研究課題/領域番号 |
20H04455
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
松本 貴裕 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (10422742)
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研究分担者 |
大原 高志 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (60391249)
冨田 誠 静岡大学, 理学部, 教授 (70197929)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2020年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | ナノ結晶 / 重水素 / 置換反応 / 同位体効果 / 量子もつれ / シリコン / 表面 / 水素 / 同位体 / 赤外振動 |
研究開始時の研究の概要 |
水素終端ナノ結晶シリコン(n-Si:H)に光を照射することによって水素離脱現象が起こることが知られている。一方, 重水素終端ナノ結晶Si(n-Si:D)に光を照射しても重水素が離脱しない。結合エネルギーが同じである水素と重水素で,どうしてこのように大きな離脱速度の違いが存在するかについては,現象発見以来30年経た現段階でも明らかになっていない。 本基盤研究では,n-Si:Dを作製して,これをn-Si:Hと比較対照する実験を行うことにより,Si表面における水素および重水素の量子力学的状態を明確にする。本研究は,重水素並びにトリチウムを効率良く回収可能な新しい水素同位体濃縮方法につながるものである。
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研究実績の概要 |
重水素は,シリコン半導体,シリコンマイクロチップ,光ファイバーの製造や,同位体標識化合物の合成,等において重要な地位を占める。しかし,現在までの技術を用いて重水素または重水素化合物を効率的に回収することは困難であり,経済性を有する効率的な水素同位体濃縮手法が求められている。本研究において,水素から重水素への同位体置換が,シリコンナノ結晶表面において効率良く起こることを発見した。具体的には,シリコンナノ結晶表面を希薄重水素溶液に浸漬することにより,シリコンナノ結晶表面に付着する重水素の濃度を,希薄溶液の濃度と比較して4 倍大きく高めることに成功した。非弾性中性子散乱分光法を用いて,水素終端および重水素終端シリコンナノ結晶表面の局在振動モードを測定することにより,この濃縮に関与する物理的メカニズムが,自由エネルギーの相違(表面のゼロ点振動エネルギーとエントロピーの和)で定量的に説明できることが判明した。本理論を用いると,気相反応(希薄重水素ガス)において,濃縮の程度を大幅に(約 15 倍)高めることができることが予測される。最終的に,シリコンナノ結晶表面における巨大同位体効果は,水素終端シリコンナノ結晶と重水素終端シリコンナノ結晶における自由エネルギーの相違が,他の材料と比較して格段に大きいことに起因することが判明した。シリコンナノ結晶表面を利用した本濃縮手法は,レアメタル等の貴金属触媒を用いない,かつ経済性を有する,新たな重水素濃縮手法への道を拓くものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)シリコンナノ結晶表面を希薄重水素溶液に浸漬することにより,シリコンナノ結晶表面に付着する重水素の濃度を,希薄溶液の濃度と比較して4 倍大きく高めることに成功した。 (2)非弾性中性子散乱分光法を用いて,水素終端および重水素終端シリコンナノ結晶表面の局在振動モードを測定することにより,この濃縮に関与する物理的メカニズムが,自由エネルギーの相違で定量的に説明できることが判明した。 (3)水素終端シリコンナノ結晶と重水素終端シリコンナノ結晶における自由エネルギーの相違が,他の材料と比較して格段に大きいことが判明した。この理由は,重水素終端シリコンナノ結晶表面の屈曲振動モードのエネルギーがナノ結晶の光学フォノンエネルギーと共鳴していることに起因する。 (4)シリコン表面に終端している2個の水素が量子もつれ状態にあることを発見した。理論的解析により,この水素量子もつれ状態を利用すれば,シリコンナノ結晶表面における巨大同位体効果を更に増大させることが可能であるとの指針を得ている。これを実現するためには中心周波数27 THzで周波数走査可能なパルスTHz発生・検出システムが必要となる。現在,福井大学遠赤外領域開発研究センターと共同で本研究を遂行中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)重水素および三重水素終端特性を評価するためのナノ結晶Siの作製 引き続き,水素終端ナノ結晶Siと重水素および三重水素終端ナノ結晶Siの作製(名古屋市立大学アイソトープ研究室を利用)をおこなう。水素終端ナノ結晶Siはフッ化水素酸およびエタノール混合溶液中で電気化学的にエッチングして作製するが,重水素または三重水素終端ナノ結晶Siは,水素終端ナノ結晶Si表面でおこる置換反応を利用して作製する。 (2)量子状態解析 現在までに確立した量子二重振動子モデルに基づき,IV属材料半導体表面における水素,重水素及び三重水素の量子力学的振る舞いを解明する。具体的には,実験にて得られた非弾性中性子散乱スペクトルから,水素の波動関数並びにポテンシャルを求める。終端した水素原子は局在性が強い調和ポテンシャル状態下に存在するため,Si-Hの屈曲振動モード(620 cm-1)は1 msという長い時間励起状態に存在する。一方,重水素および三重水素の屈曲振動モード(450-520 cm-1)はナノ結晶Siのフォノンエネルギー(450-520 cm-1)と共鳴しているため,局在性が弱まると同時に,終端した重水素原子が置かれているポテンシャルが大きく変化し,非調和性が大きくなり,1 psで緩和することが判明した。確立した量子二重振動子モデルの解析を通じて,他のIV属材料半導体表面における水素,重水素および三重水素のポテンシャル形状が,Si表面と同様な特性を持つかを理論的に明確化する。 (3)水素量子もつれ状態の応用 Si(100)1×1面に存在する軽水素が量子もつれ状態(H-Si-H鋏振動)を形成していることが判明した。今年度は,鋏振動が顕著に観測される材料を用いることによってどのような量子情報処理技術(もつれた光の発生並びに量子テレポーテーション)が可能となるかについて理論的および実験的な探査をおこなう。
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