研究課題/領域番号 |
20H04504
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 (2023) 大阪大学 (2020-2022) |
研究代表者 |
武石 直樹 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (30787669)
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研究分担者 |
横山 直人 東京電機大学, 工学部, 教授 (80512730)
田中 壽 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (40294087)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2020年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 脈波 / 脳間質液 / 脳脊髄液 / 物質輸送 / 計算バイオメカニクス / 脳動脈網 / 流体力学 / 血管周囲腔 / 代謝 / 脳内老廃物 |
研究開始時の研究の概要 |
脳内老廃物の除去機構の一つとして、脳間質液の重要性が指摘されてきたが、その詳細な動態は未だ明らかにされていない。組織スケールでのタンパク質の輸送と沈着のダイナミクスの理解は、アルツハイマー病をはじめとする脳疾患の進行機序を説明する上で必要不可欠であるにも関わらず、分子-組織間の階層を繋ぐ解析手法は確立されていない。本研究では、実験データに基づき、分子スケールのタンパク質の凝集と組織スケールにおける間質液流れの階層を繋ぐ計算力学モデルを構築し、脳間質液流れによる脳内老廃物の排除機構が成立する力学的平衡状態やその破綻機序を解明する。この知見に基づき、脳疾患の進行機序を説明する力学的概念を構築する。
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研究実績の概要 |
ヒト脳動脈網の血管分岐世代毎の脈波伝ぱ動態を明らかにすることを目的に,MRI画像(Wright et al., 2013, NeuroImage, 82:170)に基づき10例の被験者個別脳動脈モデルを構築し,1次元血流解析を行った.構築した脳動脈モデルは,数mmの入口血管直径から数百マイクロメートルの出口血管直径からなる全脳スケール規模の血管ネットワーク構造である.はじめに,モデル検証として,ウィリス動脈輪(CoW)周囲の主要脳動脈の流量分配比に着目し,モデル解析結果と実験計測値(Zarrinkoob et al., 2015, J. Cereb. Blood Flow Metab., 35:648)を比較した.両者が良好に一致することから,モデルの妥当性を確認した.次に,CoWから数えた血管分岐世代ごとの脈は伝ぱ動態を血管収縮比(血管径比),流量,圧力,そして流量と血管径の比で表されるリーマン不変量として定量した.特に,実験計測されている特定の脳動脈部における血管径比は,先行の実験計測値(Nishida et al., 2011, Am. J. Neuroradiol., 32:E206; Studinger et al., 2003, J. Physiol., 550:575)と良好に一致した.本解析結果に基づき,血管周囲空の脳脊髄液流れ(CSF)が確認できる約数十マイクロメートルスケールの脳動脈血管の脈波伝ぱ動態を推測する経験式を提案した.本結果は,国内会議(日本機械学会第33回バイオフロンティア講演会)で報告し,その内容が評価されたことで若手優秀講演表彰を受賞した.本結果は現在,国際査読付き論文として投稿する準備を進めている.この他に,本年度は,国際査読付き論文発表5件,書籍発表1件,国際会議口頭発表2件,国際会議ポスター発表1件,国内会議口頭発表3件を報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医療画像に基づき,10例の被験者個別脳動脈モデルを構築し,1次元血流解析を行った.構築した脳動脈モデルは,数mmの入口血管直径から数百マイクロメートルの出口血管直径からなる全脳スケール規模の血管ネットワーク構造である.構築したモデルを用いることによって,3次元頭蓋内の脈波伝ぱ動態を定量することに成功した.本結果に基づいて,血管周囲空のCSF流れが確認できる約数十マイクロメートルスケールの脳動脈血管の脈波伝ぱ動態を推測する経験式が提案した.以上の結果は,頭蓋内の3次元脈波伝ぱを可視化した最初の結果であり,より詳細な脈波とCSF動態の関連を探る基礎的知見になると期待される.本研究内容は,既に国内会議において発表済みであり,さらに現在,国際査読付き論文として投稿する準備を進めている.この他に,本年度は,国際査読付き論文発表5件,書籍発表1件,国際会議口頭発表2件,国際会議ポスター発表1件,国内会議口頭発表3件を報告した.以上の状況から,現在までの進捗状況をおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
上述の解析により,大規模脳動脈網における脈波動態の3次元マップを得ることに成功した.これを踏まえ、脈波由来の脳間質液流れを推測する数理モデルの構築と実験結果との比較検証が次の目標となる.また,上述の解析では着目できなかったミクロスケールでの血流動態と代謝動態の知見を示すことがもう一つの目標となる.前者については,全脳を多孔質弾性体とみなした解析系としてモデル化する方針を検討している.後者については,細胞スケールに着目し,赤血球流動と酸素輸送および周囲組織での代謝をモデル化した3次元解析を行う.これにより,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で計測される微小血管周囲の脳細胞の活性あるいは不活性について,微小血管ネットワーク構造と酸素代謝のバランスの立場から知見を示す.本モデルは,酸素代謝を物質輸送問題としてモデル化しているため拡張性が高く,酸素以外の高分子の移流拡散,そして異常な蓄積に関する問題に応用できる.最終的に,全脳スケールの脈波動態も考慮した組織スケールにおける老廃物の輸送と沈着に関する力学的概念を提示する.
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