研究課題
基盤研究(B)
本研究では、申請者らが最近発見したヒトSyncytin1由来の膜透過促進ペプチドと、独自のmRNAディスプレイ法による小型ドメイン抗体や人工ペプチドリガンドの試験管内選択技術を利用して、これまでバイオ医薬の創薬ターゲットにできなかった細胞内の疾患標的を対象とする画期的な抗がん剤の開発のための要素技術を確立することを目的とする。従来の抗体医薬による細胞外のターゲットだけではなく、「細胞内に広がっている未開の領域」を新たに創薬ターゲットとすることが可能になれば、我が国のバイオ創薬技術の基盤強化、ひいては国民の医療・福祉の向上に多いに貢献することが期待できる。
当該課題の計画では、これまで創薬ターゲットとすることが困難であった ('undruggable') がん細胞内の疾患標的に結合するヒトVH単一ドメイン抗体(以下、小型抗体)を、がん細胞選択的に細胞内に送達させることで、2重の鍵をもつきわめて副作用の少ないがん細胞選択的膜透過抗体医薬を開発するために、以下の3つの項目について研究を進めた。(1) mRNAディスプレイ法によるがん細胞表面マーカーにpH依存的に結合する小型抗体の創出。(2)ヒト由来膜透過促進ペプチドのメカニズム解析および活性向上。(3)細胞内疾患標的に結合する小型抗体の創出および選択的膜透過性の付与。前年度までに項目(1)と項目(2)の検討はほぼ完了したため、3年目は項目(3)の検討に注力した。具体的には、前年度までに検討してきた前立腺がんの悪性化に関与するアンドロゲン受容体スプライスバリアント7 (AR-V7) に結合する抗体医薬に加え、リスクヘッジするために核酸医薬についても検討を進め、膜透過促進ペプチドを融合したAgo2をキャリアとしてAR-V7に対するsiRNAを前立腺がん由来LNCaP細胞に効率よく送達し、従来法よりも迅速に標的mRNAをノックダウンすることに成功した (J. Nanobiotechnol. 20, 458, 2022)。また、本手法の汎用性を示すために、'undruggable'な疾患標的として代表的なMYCに結合する小型抗体や、細胞表面マーカーとして肝細胞特異的に発現しているアシアロ糖タンパク質受容体(ASGR)に結合する小型抗体もmRNAディスプレイ法により取得した (学会発表)。さらに、膜透過促進ペプチドとASGR抗体を組み合わせることで、ペプチド医薬の肝細胞選択的なデリバリーに成功した (J. Biol. Chem. 298, 102097, 2022)。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Journal of Nanobiotechnology
巻: 20 号: 1 ページ: 458-458
10.1186/s12951-022-01667-4
Journal of Biological Chemistry
巻: 298 号: 7 ページ: 102097-102097
10.1016/j.jbc.2022.102097
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 586 ページ: 63-67
10.1016/j.bbrc.2021.11.065
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/11/1/28-133025/