研究課題/領域番号 |
20H05657
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 勇気 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50449542)
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研究分担者 |
瀧川 一学 京都大学, 国際高等教育院, 特定教授 (10374597)
川野 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40378550)
田中 今日子 東北大学, 理学研究科, 客員研究者 (70377993)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
201,370千円 (直接経費: 154,900千円、間接経費: 46,470千円)
2024年度: 23,270千円 (直接経費: 17,900千円、間接経費: 5,370千円)
2023年度: 26,130千円 (直接経費: 20,100千円、間接経費: 6,030千円)
2022年度: 27,820千円 (直接経費: 21,400千円、間接経費: 6,420千円)
2021年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
2020年度: 95,030千円 (直接経費: 73,100千円、間接経費: 21,930千円)
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キーワード | 核生成 / ナノ粒子 / 透過型電子顕微鏡 / その場観察 / 結晶成長 |
研究開始時の研究の概要 |
核生成は物質形成の最初期のプロセスであり、科学から産業に至る様々な分野の鍵であるが、その理解は極めて限定的である。従前は、核生成がナノ領域で高速に、かつ確率的におこる現象で実空間観察が非常に困難な点が課題であった。本課題では、透過型電子顕微鏡に機械学習を導入した非平衡過程の実空間における動的観察手法を構築することで従前の問題を解決する。これにより、溶液から前駆体を経て結晶ができるまでの核生成過程の一部始終を可視化する。従来見過ごされてきたナノ粒子特有の現象や物理定数を求め、水和層の影響を明確にして核生成を支配するキーファクターを明確にし、使える核生成の理論モデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度までに開発した機械学習による、画像の鮮明化、核生成の早期検出、粒子サイズ計測を機械学習の3つのアルゴリズムを用いたリアルタイム画像改善・計測によって,核生成や化学反応の動的な観察時などに、観察すべき時空間をガイドしてもらうことで、結晶核をいち早く高分解能観察したり、素早く電子回折パターンを取得したりできるようになった。これにより、従来の偶然に頼った核生成の観察を能動的に行うことができる。その結果、データ量を増やすことが可能になることから、十分なデータ数を使って定量的な議論を展開できるようになると期待される。 並行して、2022年度から始めた、水中のナノ粒子がぼんやりと見える程度の不明瞭画像を, 水を取り払ったかのような明瞭な画像に改善する手法を確立し、論文として報告した。これにより、これまで可視化できなかった水中のナノメートルスケールの普遍的な動的挙動を確実にとらえられるようになった。 同時に、液体中の様々な現象を高い空間・時間分解能でその場観察できる液体セル透過電子顕微鏡(LC-TEM)用のペルチェ式冷却試料ホルダーを開発し、査読付き論文として報告した。このホルダーは、様々な物質の過飽和度を制御し、結晶化をより容易に観察するために有用な室温からマイナス数十℃までの温度制御が可能である。 さらに、パルス電子線照射を結晶成長の環境制御に初めて適用した。電子線による水の放射性分解を利用して成長と溶解を周期的に繰り返すことで、ドロマイトの成長速度を数桁上げることに成功し、査読付き論文としてScience誌に報告した。これにより、成長の難しいドロマイトが自然環境に豊富に存在している理由が解明された。これは、他の鉱物の形成メカニズムの議論と効率的な結晶材料の合成手法に新たな指針を与える成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度の計画を以下の通り達成するのに加えて、パルス電子線を用いて過飽和度の周期的な変動による新たな鉱物形成メカニズムを提唱し、Science誌に報告したため、当初の計画以上に進展していると判断した。 計画1:機械学習による液中画像の鮮明化 実績:ぼんやりと見える程度の水中のナノ粒子の不明瞭な画像を、機械学習を用いて水を取り払ったかのような明瞭な画像に改善することに成功し、査読付き論文として顕微鏡に関する国際誌であるMicroscopy and Microanalysis誌に報告した。 計画2:溶液中での核生成過程を透過型電子顕微鏡を用いてより高分解能で観察するために、従来の50 nm厚の非晶質窒化シリコン膜を用いた溶液セルに代えて、グラフェンを窓として利用する手法開発に取り組む。 実績:この取り組みの結果、グラフェンセルを作製できる条件を見出し、査読付き論文をScientific Reportsに投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では全く新規に機械学習を取り入れたTEM“その場”観察の研究をスタートさせた。1年半で、画像の鮮明化、核生成の早期検出、粒子サイズ計測を機械学習に任せられるようになった。3年目には、これら3つのアプリケーションを我々が専有するTEMに実装した。これにより、リアルタイム画像改善・計測によって, 動的な核生成や化学反応の観察などにおいて、その時々に観察すべき時空間をガイドすることができるようになった。4年目は、さらに水中の試料を撮影したTEM像を鮮明化できるようになった。今後は、これらの成果を用いて、結晶核をいち早く高分解能観察したり、素早く電子回折パターンを取得したりするなど、質の高いデータを継続的に取得する。機械学習の教師データの収集効率が高まることで、機械学習の質も高まるという好循環が生まれつつある。従来は、偶然に核生成を観察できた数例で議論していたのに対して、十分なデータ数を使って定量的な議論を展開できるようになると期待される。さらに、改善された画像から人間が特徴を見出すことで新たな知見の獲得へとつなげる。 並行して、従来の50 nm厚の非晶質窒化シリコン膜をグラフェンに換えた溶液セルを用いることで、より質の高いデータを取得する。よって、これまで可視化できなかった水中のナノメートルスケールの普遍的な動的挙動を確実にとらえられる手法を確立する。 これらの取り組みにより、水和層の無い気相からの核生成実験と合わせ、水溶液からの核生成を支配するキーファクターに迫る。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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