研究課題/領域番号 |
20H05658
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 泰浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40221882)
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研究分担者 |
安川 和孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00757742)
野崎 達生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(海底資源センター), グループリーダー代理 (10553068)
高谷 雄太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10636872)
町田 嗣樹 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (40444062)
大田 隼一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70793579)
岩森 光 東京大学, 地震研究所, 教授 (80221795)
藤永 公一郎 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (90409673)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
203,970千円 (直接経費: 156,900千円、間接経費: 47,070千円)
2024年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2023年度: 17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2022年度: 19,500千円 (直接経費: 15,000千円、間接経費: 4,500千円)
2021年度: 19,500千円 (直接経費: 15,000千円、間接経費: 4,500千円)
2020年度: 135,590千円 (直接経費: 104,300千円、間接経費: 31,290千円)
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キーワード | 資源探査 / 海底鉱物資源 / グローバル物質循環 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、海洋底の大部分を占める遠洋性粘土をキーマテリアルとして捉え、「化学層序プローブ」を用いて網羅的に解析することで、グローバル環境変動・物質循環のダイナミクスの全容を定量的に解明する研究である。また、有用元素の循環を定量的に議論することで、資源成因の支配プロセスの全体像を解明する。そして、環境変動や資源生成を統一的な枠組みで説明可能な,真に革新的なグローバル物質循環についての統合理論の創成を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度において研究代表者らは,前年度に引き続き海底鉱物資源試料の高精度化学分析および堆積年代決定を行い、太平洋広域における遠洋性粘土の「化学層序プローブ」の構築と,膨大な堆積物化学組成データセットを統計的に解析することによる時空間分布の可視化を実施した.大西洋から採取された遠洋性粘土試料について検討を行った結果,5本の堆積物コア試料からレアアース泥(総レアアース濃度400~670ppm)を確認することができた.大西洋のレアアース泥は太平洋と比較すると,高濃度のレアアースを含む生物源リン酸カルシウム(BCP)の寄与が相対的に小さく,海洋のレアアースフラックスや堆積速度に支配される海水起源成分の寄与が大きいことが明らかとなった.そのため,レアアース濃度は相対的に低く,レアアース資源としての可能性は太平洋に比べると限定的であるといえる.また,南太平洋の海底堆積物試料のOs同位体組成の変動を検討した結果,大陸起源および北大西洋火成岩岩石区 (NAIP) 起源のOs流入フラックスの増大により,観測された海水Os同位体比の変動を再現できることが示された.その結果,大陸起源のOsフラックスは暁新世-始新世境界温暖化極大 (PETM) 期間中に15.7%増大し,珪酸塩の化学風化による温暖化に対する負のフィードバック機能が示唆された.さらに,南鳥島マンガンノジュールの化学層序について検討した結果,8 つの異なる層序が識別できた.マンガン酸化物層中のリン酸カルシウムはBCPであると考えられ,BCP量の変動は,南鳥島レアアース泥の第1レアアースピーク堆積と何らかの関連がある可能性がある.また,ノジュールのTi含有量は,成長速度を表す可能性が示唆され,南鳥島マンガンノジュールの成長速度はL2/L1境界のハイエイタスの前後で非常に遅かった可能性が示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度において,研究代表者らは遠洋性粘土の「化学層序プローブ」の構築と,堆積物化学組成データセットの統計解析による時空間分布の可視化を実施した.特に,約4,000試料×44元素におよぶ膨大な堆積物化学組成データセットについて,独立成分分析を用いた解析を行った結果,遠洋性粘土を構成する9種類の起源成分を統計的に分離することに成功した.主成分元素に加えて微量元素も解析の対象に含めたことにより,遠洋性粘土を含む様々な深海堆積物の化学的特徴を詳細に捉えることが可能となった.また,プレート運動および堆積年代を考慮することで,それらの時空間分布を可視化することにも成功した.さらに,研究代表者らは深層学習手法を用いることで,顕微鏡画像から効率的にイクチオリス(魚の歯や鱗の微小な化石)を観察できる手法を開発した.これは,これまでの古典的な手法とはまさに次元の違うスピードで,堆積物のイクチオリス年代を同定できる極めて画期的なものである.これらの成果は,すでにPaleoceanography and PaleoclimatologyやEarth and Space Scienceなどの著名な国際誌に公表したほか,国際・国内学会でも発表している.以上のことから,本研究は,「グローバル物質循環という真に俯瞰的なスコープで,気候変動から火山・マントル活動を含む地球上の諸現象を統一的に説明する理論の創成」という当初の目標に向けて予定を上回るペースで進捗しているといえる.さらにその過程で,当初は想定していなかった重要な学術的知見も複数得られていること,それらの知見が幅広い理学・工学分野にも波及して新展開をもたらしつつあることから,期待以上の成果が見込まれると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2024年度には,それまでに得られたすべての分析・解析結果をもとに,地球表層の環境変動の全体像を明らかにし,大気-海洋系と遠洋性粘土の間の物質収支およびそのフラックス変動の定量化を行う.また,遠洋性粘土への元素濃集過程を海洋中の元素マスバランスの観点から巨視的に検討し,資源となり得る元素の濃集条件を特定する.さらに,沈み込み帯を介した地球表層から固体地球内部への物質フラックスまでを包含したグローバル物質循環の時間変動をシミュレートする.このモデルでは、大気-海洋表層/中層/深層-生物圏-遠洋性粘土-岩石圏の間における様々な元素の物質収支とそれを支配する因子・プロセス (温度・pH等の物理化学条件,生物生産性,海洋循環等) を網羅することで,全地球規模の物質循環を定量的に明らかにする.さらに,有用元素の循環に着目することで,環境変動が資源生成に果たす役割についても解明する.計算にあたっては,主要なパラメータに対して確率分布を仮定し,乱数を用いたモンテカルロシミュレーションを行い,不確実性を統計的に評価する.以上の成果を総括し,これまでの堆積物研究における巨大な空白域であった遠洋性粘土に焦点を当てることで,海洋環境変動と資源生成の因果関係を統一的に説明しうるグローバル物質循環の全容を世界で初めて明らかにする.
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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