研究課題/領域番号 |
20H05663
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
邑瀬 邦明 京都大学, 工学研究科, 教授 (30283633)
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研究分担者 |
梅林 泰宏 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90311836)
中野 博昭 九州大学, 工学研究院, 教授 (70325504)
北田 敦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30636254)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
198,900千円 (直接経費: 153,000千円、間接経費: 45,900千円)
2024年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
2023年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
2022年度: 29,510千円 (直接経費: 22,700千円、間接経費: 6,810千円)
2021年度: 42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2020年度: 68,900千円 (直接経費: 53,000千円、間接経費: 15,900千円)
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キーワード | 電析 / 濃厚電解液 / 溶液化学 / 金属錯体 / 金属組織 / 水和物融体 / 深共晶溶媒 / 配位型イオン液体 / 電気めっき |
研究開始時の研究の概要 |
電解液中の金属イオンを電気化学的に還元して金属や化合物を得る「電析」は、ものづくりの様々な場面で役立つ要素技術である。研究代表者らは最近、非常に濃い電解質濃度をもつ電解液を活用した新しい電析技術を提案し、環境調和型のクロムめっき、新しい電池技術に向けたアルミニウム電析、太陽電池向けの酸化物半導体電析などで成果を挙げている。本研究では、このような超濃厚で特殊な溶液環境におかれた金属イオン種がどのような形態にあり、それが得られる電析物の組織や物性にどのようにかかわっているのか、電析現象の上流と下流の相関を詳しく解明し、超濃厚電解液のメリットを活かした電析技術の高度化に役立てようとするものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、(1) 水和物融体を用いる電析・電気めっきの解析と高度化、(2) 塩化アルミニウム-グライム系 DES を用いる Al 電析の解析と高度化、(3) 超濃厚α-ヒドロキシ酸水溶液を用いる Cu2O 薄膜電析の解析と高度化、を主要課題としている。 本年度、(1) では電析 Cr 膜と Fe 基板界面の解析のため、電析膜を剥離する転写法を確立した。剥離面の SEM-EDX 解析では FeClx の形成、GI-XRD 解析では界面の Cr 相がδ相のみであることを明らかにした。EQCM による電析挙動の解析からは、電析を始めてから高い電流効率での Cr 電析へ移行するまでに数秒の誘導時間があり、それが基板材質にも依存することを見出した。また、Co 電析と共析水素に関する新たな研究も行った。 (2) では Al(III) 溶存化学種について理論計算と実験の両面から解析した。誘電緩和法 DRS により、双極子モーメントをもつ AlCl3 や [AlCl]2+ の生成が示唆された。いずれのグライム鎖長でも、生じる Al(III) 種に大きな違いはなく、グライム鎖長や末端アルキル鎖に依存した Al の電析性の違いは、電極-電解液界面における反応性の差によることが示唆された。 (3) では乳酸系電解液からの電析 Cu2O 薄膜について、van der Pauw 法による比抵抗と Hall 効果測定を重点的に行い、アルカリ性の互いに異なる pH 域で支配的な2種類の Cu(II)-乳酸錯体とこれらの半導体物性や電析配向性に強い相関があることを見出した。ここでは、2種類の錯体の構造に起因する電析性の違いが半導体物性を決め、それが配向性を間接的に支配していると考察した。また、濃厚水溶液系での Cu(II)-乳酸錯体の特異な安定性に関し、Gaussian を用いた計算化学的な解析も始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を立案する上での出発点となった3つの主要課題すべてについて、前年度に引き続いて電解液の解析と電析物の評価の両面で進展があり、これまでに 14 件の原著論文(累積)を出版した。また、学会等での一般発表は、国際会議を含め54件(累積)にのぼる。 超濃厚水溶液を用いる硬質3価クロムめっきについては、この系に特有のδ相が電析初期に生じていることを明らかにするとともに、副反応の水素発生が拡散限界に至ることで高い Cr 電析電流効率が実現していることを見出した(論文投稿中)。 グライム系 DES を用いる Al 電析については、溶液バルクにおける錯体の構造よりもむしろ電極界面での反応性が電析性を決めている可能性を見出した。今後解析を進めるべき箇所が電極-電解液界面であることを明確にすることができた。 超濃厚乳酸浴からの Cu2O 電析については、当初の目標であった錯体種と半導体特性ならびに電析組織の相関が解明され、長年にわたってその原因が不明であった電析配向性の pH 依存について、合理的な説明することに成功した(論文投稿中)。 Cr 電析の初期挙動の in situ 解析では、その成果を発表した学生が一般社団法人 表面技術協会の第11回学生優秀講演賞ならびに第29回学術奨励講演賞を受賞した。また、新しい試みとして着手している水和物融体からの鉛電析については、一般社団法人 資源・素材学会の第48回論文賞に選ばれるなど客観的な評価も得ている。以上の理由により、「研究はおおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでいると判断されることから、当初の計画に沿った研究のみならず、これまでに得られた知見を活用した他の電析系への研究展開をさらに進める。研究出力を維持するため、京都大学では特定有期雇用教員(特定助教)を 2023 年度も継続して雇用し、本研究課題へ重点的にあたらせる。新潟大学では昨年度まで雇用していた特任助教が定員内の助教に昇任したことから、新たに研究補助の雇用を検討している。具体的な研究方針は以下の通りである。 水和物融体を用いた Cr 電析については、基板との界面に生じる物質の特定をさらにすすめるとともに、電解液中の Cr(III) 塩化物錯体との相関についても、その定量化を含めて検討する。また、新しい電析系として塩化第一銅を含む系での銅電析や、アルカリ性水和物融体を用いる Zn や Al 電析に着手する。 グライム系 DES を用いる Al 電析については、Al(III) 溶存化学種の解析の定量性を上げるため、内部標準法による NMR 測定と解析を取り入れる。DRS 測定の低周波数域に、接触イオン対に帰属できる遅い緩和モードの存在が示唆されており、この緩和モードについても詳細に調べる。電極-電解液界面での反応性を調べるため、Al の析出/溶解反応に関する in situ でのインピーダンス測定も行う。また、応用面では過飽和 Al-Fe 合金の電析など、実用性の高い系についての検討に新たに着手する。スルホランを溶媒とする Al 電析についても、DRS 測定などによる錯体種の解析を行う。 乳酸系の電解液からの電析 Cu2O 薄膜については、計算化学的考察による錯体の安定度評価をさらにすすめるとともに、グリーコール酸、クエン酸、酒石酸といった他のα-ヒドロキシ酸を配位子とする系との比較も並行して行う。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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