研究課題/領域番号 |
20H05668
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
片浦 弘道 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 招聘研究員 (30194757)
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研究分担者 |
田中 丈士 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (30415707)
平野 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90613547)
斎藤 毅 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (60371043)
桑原 有紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20635312)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
196,690千円 (直接経費: 151,300千円、間接経費: 45,390千円)
2024年度: 30,940千円 (直接経費: 23,800千円、間接経費: 7,140千円)
2023年度: 37,700千円 (直接経費: 29,000千円、間接経費: 8,700千円)
2022年度: 42,510千円 (直接経費: 32,700千円、間接経費: 9,810千円)
2021年度: 45,370千円 (直接経費: 34,900千円、間接経費: 10,470千円)
2020年度: 40,170千円 (直接経費: 30,900千円、間接経費: 9,270千円)
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キーワード | カーボンナノチューブ / 欠陥分析 / 欠陥修復 / 低欠陥合成 / 欠陥制御 / 構造分離 / 高移動度 |
研究開始時の研究の概要 |
1991年に日本で発見されたカーボンナノチューブ(以下CNT)は、軽量・高強度、高いキャリア移動度など優れた物性が理論的に予言されたが、その予言は未だ実現されていない。原因はCNTに多数存在する「欠陥」にある。本研究課題では、新開発の「欠陥密度によるCNT分離」を基盤技術とし、「欠陥修復技術」を構築することにより、欠陥を含まない無欠陥CNTの実現を目指す。さらに、CNTの精密構造分離技術と組み合わせる事により、構造が一義的に定義され、かつ欠陥を含まない「完全構造CNT」の創製と応用を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を欠陥密度の違いで分離する新技術を基盤として、構造が厳密に定義された欠陥の無い「完全構造SWCNT」を創出し、その応用展開を目指すことを目的としている。今年度は中心的課題である欠陥修復に向けた取り組みを行った。 まず、ラマン散乱測定以外の欠陥評価手法が必要だとの中間審査コメントに従い、高温下の各種雰囲気中でSWCNTシートの電気抵抗を測定する、新たな装置を作製した。欠陥が修復されれば、欠陥による電子散乱が抑制され、電気抵抗の減少となって観測される。これは、欠陥分離の結果からも確認されている。さらに、試料間での測定値のばらつきを抑えるため、大量のSWCNT試料を十分に均一化した後に成膜した試料を準備した。これらを用いて、各種条件の下でSWCNTの抵抗の変化を調べたところ、SWCNTには高温でないと除去できない未知の不純物が多く含まれていることが明らかになった。それらの不純物をすべて取り除いて、正味の抵抗変化を調べたところ、すべての処理条件で抵抗が増加し、欠陥が増えてしまうことがわかった。雰囲気の調整や有機物の導入などで、ほんのわずか混入する酸素が欠陥導入につながっていると思われ、その欠陥導入を超える欠陥修復は困難であるというのが現時点の結論である。 SWCNTの構造分離技術にも進展があり、高純度の(7,7)型金属SWCNTの分離が可能となった。このSWCNTは、E11吸収が波長505nmにあり、Arレーザーを用いる事により、共鳴ラマン散乱の測定が可能であった。その結果、欠陥由来のD-bandにも通常の共鳴効果が顕著に観測されることが初めて明らかとなった。これは、欠陥の指標であるラマンのG/D比が、SWCNTでもグラフェンと同様に取り扱えることを示しており、G/Dが100を超えるSWCNTは低欠陥として取り扱えることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高温処理に必要な電気炉を8月に購入しようとしたところ、年度内納品が不可能であるとの回答を得るなど、各種物品に大幅な納期遅延が引き続き発生しており、予定した機器の調達が困難であった。そのため、必須の装置は一部自作する必要に迫られた。また、国際情勢の不安定化もあり、海外からのポスドク人材が極めて限定的であり、ポスドクの雇用がかなわなかった。既存の人的資源のやりくりでなんとか研究レベルを維持したが、これらの理由により、本年度はこれまでで最も研究遂行に困難を極めた年度であった。また、厳密な測定系を新たに構築した結果、欠陥修復が予想以上に困難であることが明らかとなり、若干の計画変更が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、触媒をほぼ完全に除去可能になり、予想外に含まれていた未知の不純物の除去も可能になった。その一方で、単一炭素欠損を一つ一つ修復するような、比較的マイルドな処理による欠陥修復が予想以上に困難であることも明らかとなった。これらの結果を総合して解析すると、SWCNT合成時のリアクター内部の環境がすでに欠陥導入に十分な、劣悪な環境であることもわかる。合成直後のSWCNTにすでに多くの欠陥が含まれている原因は、そこにあると思われる。つまり、これらの欠陥を修復するには、合成時と同様な条件で、合成時よりもはるかに高度に調整された雰囲気で欠陥修復処理を行う必要があることが示唆される。今後は、SWCNTの再成長が生じるレベルの環境で、各種処理を行うことで、欠陥修復を実現することを目指す。 一方、低欠陥でSWCNTを合成することも本研究課題の一部であり、これまでの知見を合成に導入することで、初期の欠陥密度を低減できる可能性もある。ただ、合成のプロセスは非常に複雑であり、単純な環境の調整では済まないことも分かっている。この件に関しては、分担者と協議してブレークスルーを探ることになる。 欠陥修復は実現していないが、触媒フリーで、各種不純物が高度に除去されたクリーンなSWCNTが得られている。これは市販SWCNTへの処理で可能であるため、大量処理が可能であることから、今後このクリーンなSWCNTを高度に分離した試料を国内外の共同研究者に提供し、各種応用に展開していく予定である。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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