研究課題/領域番号 |
20H05670
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
小栗 克弥 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 部長 (10374068)
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研究分担者 |
石川 顕一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70344025)
日比野 浩樹 関西学院大学, 工学部, 教授 (60393740)
国橋 要司 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 主任研究員 (40728193)
田中 祐輔 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 研究主任 (40787339)
関根 佳明 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 多元マテリアル創造科学研究部, 主任研究員 (70393783)
加藤 景子 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (40455267)
増子 拓紀 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60649664)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
201,370千円 (直接経費: 154,900千円、間接経費: 46,470千円)
2024年度: 19,890千円 (直接経費: 15,300千円、間接経費: 4,590千円)
2023年度: 29,510千円 (直接経費: 22,700千円、間接経費: 6,810千円)
2022年度: 23,270千円 (直接経費: 17,900千円、間接経費: 5,370千円)
2021年度: 32,890千円 (直接経費: 25,300千円、間接経費: 7,590千円)
2020年度: 95,810千円 (直接経費: 73,700千円、間接経費: 22,110千円)
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キーワード | アト秒科学 / ペタヘルツエレクトロニクス / 光波駆動現象 / 人工二次元結晶 / ファンデルワールス物質 / 時間依存密度行列法 |
研究開始時の研究の概要 |
既存の最高品質の高周波を遙かに凌駕する精度で制御可能となった光は、サブペタヘルツ(PHz : 1015 Hz)周波数で振動する電界としてエンジニアリングが可能な電磁波、すなわち”PHz波”と捉えることができます。本研究では、物質科学のフロンティアである特異なバンド構造、スピン物性、バンドトポロジーを有する層状量子物質群を対象として、独自に開発するアト秒(10-18 秒)時間分解分光プラットフォームによる計測と、第一原理計算・実時間量子シミュレーションの両面から、電子系と光波電界の相互作用を明らかにすることで、”PHzスケールの固体光物性”と呼ぶべき新しい分野を創出することを目指します。
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研究実績の概要 |
本研究では、以下の3課題を並行して進めており、2022年度は、特に課題1において進展があり、1MHz級単一アト秒分光用光源の開発が大きく前進した。 【課題1】次世代単一アト秒分光プラットフォームの開発:21年度に着手したYb固体レーザベース(パルス幅184 fs、平均出力80W)のポストコンプレッション法による高繰返し数サイクル光源の開発において、2段階マルチプレート圧縮(MPC)法による更なる短パルス化を追求した。第1段階MPCで、非線形高次分散の影響を減らしたパルス圧縮することで、第2段階MPCにおいて、群速度(二次)分散補償のみで1MHz繰返し・パルスエネルギー35μJの世界最短級パルス幅1.7サイクル(5.7 fs)を達成した。更に、圧縮パルスの集光性能やスペクトル一様性などビーム品質を評価し、集光強度1015 W/cm2を超えることを確認した。 【課題2】光波電界-固体電子系相互作用のPHzスケールダイナミクス計測:時間分解ARPES法による光波電界駆動ブロッホ電子系ダイナミックイメージングの研究を進めた。今年度は、2021年度に観測したWSe2のΓ-K方向における過渡レプリカバンドの起源が、光ドレスド状態の一つであるボルコフ状態が支配的であることを確認した。更に、WSe2の直接バンドギャップに共鳴励起させることによって、実キャリアを伝導帯に生成させると共にそのボルコフ状態を同時に誘起させることに成功した。また、電子-正孔相互作用を取り入れた時間依存ハートリーフォック法の理論的枠組みを構築し、シミュレーションにより、電子-正孔相互作用が光波電界によるキャリア励起を促進することを初めて示した。 【課題3】光波電界駆動スピンダイナミクスによるPHzスケールスピントロニクスの開拓:前年度に引き続きアト秒時間分解磁気カー効果(ATTO-MOKE)分光システムの開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(1)において実現したYb系固体レーザの数サイクルパルス化は、平均出力80W、繰返し周波数1MHz、パルスエネルギー35μJのサブ2サイクルパルスを達成している。集光強度が1015 W/cm2超まで到達したことから、極端紫外領域の単一アト秒パルス発生用ドライバ光源として十分な仕様を満たしている。本光源を用いて、高次高調波発生の予備実験も実施済みであり、40eV付近にアト秒パルス発生を示唆するコンティニュームなスペクトルの観測に成功した。この進捗は、1MHz級単一アト秒パルス光源の開発という本課題の目標に向け、着実に技術を前進させた意義は大きい。 課題2では、ボルコフ状態計測の実現をベースに、Γ-K方向と垂直方向における伝導帯バンド分散計測によりボルコフ状態の効果を低減させることで、ブロッホバンドの光ドレスト状態であるフロケ状態の計測に取り組んだ。その予備計測では、フロケ状態の特徴である反交差ギャップが明瞭に見られないことなど、フロケ状態が支配的であることを特定できない段階ではあるものの、過渡レプリカバンドの計測に成功している。ブロッホ電子系フロケバンドの観測は、光物性分野においても注目度が急上昇中のテーマであり、2022年度の進展は、PHzスケール領域のフロケ状態の光波制御に向けた重要なマイルストーンである。 課題3では、2022年度より、リアルスピンのPHz制御と並行して、光のスピン-軌道相互作用を利用した固体高次高調波トポロジカル光波発生の研究を開始した。厚みのあるGaSe結晶を媒質として、円偏光基本波を短焦点集光することのみでトポロジカル高調波が発生することを実証した。本研究は、課題2で進めているバレー偏極の光波制御という擬スピン効果の光版と言うべきものであり、PHzスピントロニクスの新たな方向性を切り拓くものである。以上を総合的に判断し、順調な進展と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
課題1では、2022年度に実現した1MHz繰返し・80W平均出力のYb系高出力フェムト秒レーザベースサブ2サイクル光源による高次高調波発生(HHG)実験を進める。特に、HHGの高平均出力化を進めると共に、光源のキャリアエンベロープ位相(CEP)安定化を図り、1MHz繰返し単一アト秒パルス発生と、そのスペクトルのCEP依存性計測を実現する。更に、本アト秒光源をベースにMHz級アト秒吸収分光実験系の構築に着手する。 課題2では、2022年度までに実現した時間分解ARPES法によるWSe2における光ドレスドバンドの観測及び光励起状態の緩和過程観測の実験の結果をまとめるとともに、遷移金属カルコゲナイド(TMDC)と共に、強いフロケバンドの観測が期待される単相グラフェンの計測を開始する。また、時間分解ARPESのサブサイクル化を進めるため、中赤外数サイクルポンプ光の導入に向けた光パラメトリック波長変換系の構築を進める。並行して、電子散乱の効果を抑えるため、20Kレベルの冷却系の導入を図る。また、材料Gでは、本実験のサンプルとなる大面積・高品質二次元結晶並びに二次元ヘテロ構造の合成の研究を進め、CVDによる絶縁体基板上への直接成長技術や、多層成長制御グラフェンの作製を進める。 課題3では、アト秒時間分解磁気カー効果分光システムの開発を継続し、透過計測配置による時間分解アト秒偏光回転の計測を実証する。2022年度に開始した実時間第一原理計算によるトポロジカル絶縁体表面ディラックバンドにおける光波駆動スピン流のシミュレーションを進めると共に、バレー・スピン偏極TMDCにおける光波電界駆動効果のシミュレーションに着手する。また、昨年度、新たな方向性として開始したトポロジカル固体高次高調波発生の研究を進め、光のスピン-軌道相互作用まで拡張した動的対称性の基づく選択則を明らかにする。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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