研究課題/領域番号 |
20H05674
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分E
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉野目 道紀 京都大学, 工学研究科, 教授 (60252483)
|
研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
198,510千円 (直接経費: 152,700千円、間接経費: 45,810千円)
2024年度: 27,560千円 (直接経費: 21,200千円、間接経費: 6,360千円)
2023年度: 27,560千円 (直接経費: 21,200千円、間接経費: 6,360千円)
2022年度: 27,560千円 (直接経費: 21,200千円、間接経費: 6,360千円)
2021年度: 46,540千円 (直接経費: 35,800千円、間接経費: 10,740千円)
2020年度: 69,290千円 (直接経費: 53,300千円、間接経費: 15,990千円)
|
キーワード | 触媒的不斉合成 / 不斉増幅 / 高分子触媒 / 動的キラリティ / らせん高分子 / キラルシフト試薬 / 動的不斉転写 / 不斉合成 / 触媒設計 / 有機金属化学 / 機能性高分子 / キラル高分子 |
研究開始時の研究の概要 |
医薬品や新機能性材料創製の鍵を握る不斉合成(有機鏡像異性体化合物の選択的合成)における全く新しいアプローチとして、遍在天然化合物や物理的なキラリティからの不斉転写を利用することを可能にする、新しい触媒システムの開発を行う。らせん高分子の持つらせんキラリティの動的性質と、弱いエネルギーを線型的に集積する働きに着目し、触媒機能を持つ動的らせん高分子を開発してこれを実現する。このような高分子触媒の開発により、「弱いキラル相互作用の増幅」 に加えて、低い光学純度の遍在キラル化合物をキラル源として用いて高い光学純度の生成物を得る「ホモキラリティ増幅」、さらには「自己不斉増幅触媒反応」を実現する。
|
研究実績の概要 |
【1】アキラルPQXとの非共有結合性分子相互作用により、水中及び有機溶媒中においてらせん誘起を行うキラル有機化合物の探索を進めた。水溶性PQXに関しては、アキラルアンモニウム側鎖を有するPQXが、特に酒石酸やマンデル酸などのヒドロキシ酸により効果的にらせん誘起を受けることが明らかとなった。一方、アルキルエーテルを側鎖として有する脂溶性PQXにおいては、アミノ基上にアミノカルボニル基を導入したアミノ酸誘導体が、これまで検討を進めてきたN-アシル護体と比べ、飛躍的に強いキラル誘起能力を有していることを見出した。 【2】キラルカルボン酸側鎖を有するPQXが、キラル配位子として作用して、銅触媒不斉ディールスアルダー反応において、98%ee以上に達する高いエナンチオ選択性で生成物を与えることを見出した。また、キノキサリン環6,7位にヒドロキシメチル基を有する新たなユニットを開発し、二つのヒドロキシ基がリン原子と結合した新しい分子設計に基づくC2対称形高分子配位子の合成に成功した。 【3】キラルゲストによって誘起したらせんキラリティのメモリーの実現に向け、らせん反転機構の解明を進めている。これまでにさまざまな動的らせん高分子が知られているが、重合度とらせん反転速度の関係性は不明であった。興味深いことに、ラセミ化の過程は重合度にほぼ比例する一方、ラセミ体からのらせん誘起の過程は、重合度に依存しないことがわかった。 【4】上記に加え、PQXをキラルNMRシフト試薬として用いる検討を進めた。エポキシド、アルコール、ハロアルカンやカルボニル化合物、さらにはアルケンやアルカンなど、官能基の有無、種類によらず、広い対象物の鏡像異性体が1H 、13C、19F NMRにより識別可能であった。また、高分子と低分子のNMR緩和時間の違いを利用することでPQX由来のシグナルを消去することが可能であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画のほぼ全ての項目において計画以上の成果を得ており、順調に研究が進展している。特に重要な成果を以下に掲げる。 (1) アミノ酸のアミノ基上にアミノカルボニル基を保護基として導入すると、従来のアシル保護基を有するアミノ酸誘導体と比べ、プロピルオキシメチル基を側鎖に有するアキラルPQXに対する不斉誘起が極めて効果的に進行し、ごく少量の添加で完全ならせん誘起が進行することを見出した。 (2) PQXの重合度とらせん反転速度の関係性を明らかにし、ラセミ体から一方向巻き螺旋を形成するらせん誘起過程は重合度に依存しない一方、一方向巻き螺旋がラセミ体に巻き戻るラセミ化の過程は、重合度に比例してらせん反転速度が増大することを明らかにした。これは、キラルゲスト非存在下でらせんキラリティを維持する、いわゆるキラリティのメモリーを実現するための重要な分子設計指針となる。 (3) PQXが低分子化合物と非結合性相互作用を有することを利用し、特定の官能基に依存しないNMRキラルシフト試薬を開発した。このキラル高分子を利用した初めてのシフト試薬は、高い汎用性に加え、高分子の短いスピン緩和を活かすことで、それ自身のNMRシグナルが検出されないtracelessシフト試薬として広い利用が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
R4年度までの研究で、非結合性相互作用に基づいた、従来微弱な分子相互作用を増幅してらせんキラリティ誘起を行う新たな分子システムの構築とともに、このらせんキラリティ誘起を利用して形成させたらせん高分子PQXを触媒とする不斉触媒反応の開発を進めてきた。今年度はこれらの知見のさらなる統合を図り、キラリティを微弱なキラル分子相互作用によって動的に誘起することが可能な新規不斉触媒システムの開発を進める。 1. キラル触媒ユニットの開発と最適化:昨年の研究において、C2対称ユニットのデザインと合成を確立し、高分子らせんキラリティが同ユニットに対して効果的なキラリティ転写を行うことを確認した。今年度はこの高分子ユニットを導入した新しい高分子触媒を不斉水素化反応や関連反応に用い、ユニット構造及び高分子骨格の最適化を図る。 2. 水溶性キラル高分子触媒の開発:昨年度までの研究で、カルボン酸部位やポリエチレングリコール基を側鎖として有するPQXが、水中において効果的かつ鋭敏にキラルらせん誘起を受けることを見出している。これを利用し、これまでほとんど知られていない水溶性らせん高分子を、水中反応におけるキラル触媒として用いる検討を進める。特に、ポリペプチドと同様に、空間的に近接した、異なるモノマーユニット上に存在する官能基が不斉触媒反応空間を構築する、いわば「完全人工酵素」ともいうべきキラル高分子触媒の開発を進める。 3. PQXと低分子化合物との非結合性相互作用の解明: 高分解能NMR測定、VCD(振動円偏光二色性)測定、量子化学計算等を利用して、らせん高分子骨格と低分子化合物との非結合性相互作用の分子機構を明らかにする。PQXの有するらせん状の分子溝(groove)に対して、分散力と静電力が協調的に働く機構を明らかにすることで、さらに高いらせん誘起能力を有する低分子キラル化合物の探索を行う。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
|