研究課題/領域番号 |
20H05677
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分E
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
友岡 克彦 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (70207629)
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研究分担者 |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (10211690)
入江 亮 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (70243889)
浅野 周作 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (30827522)
森 俊文 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (20732043)
井川 和宣 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80401529)
中崎 敦夫 岩手大学, 理工学部, 教授 (00366428)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
198,640千円 (直接経費: 152,800千円、間接経費: 45,840千円)
2024年度: 33,670千円 (直接経費: 25,900千円、間接経費: 7,770千円)
2023年度: 33,670千円 (直接経費: 25,900千円、間接経費: 7,770千円)
2022年度: 34,580千円 (直接経費: 26,600千円、間接経費: 7,980千円)
2021年度: 34,580千円 (直接経費: 26,600千円、間接経費: 7,980千円)
2020年度: 62,140千円 (直接経費: 47,800千円、間接経費: 14,340千円)
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キーワード | 動的不斉誘起 / 光学活性体 / 動的キラル分子 / 静的キラル分子 / 外的キラル因子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,キラル分子を光学活性体として調製するための新手法として動的不斉誘起法[DYASIN(ダイアシン): dynamic asymmetric induction]を開拓する.本法ではラセミ体の動的キラル分子にキラル固体などの外的キラル因子を混ぜて放置するだけで不斉誘起がおこり光学活性体が得られる.また,DYASINで得られた光学活性な動的キラル分子を立体選択的に変換することで多様な静的キラル分子が光学活性体として得られる.本研究ではDYASINの原理探求,汎用化,実用化を目指す.
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研究実績の概要 |
現代の化学・物質科学において,キラル分子を光学活性体として調製することは極めて重要である.そのために人類はこれまでに数多くの工夫を成し,その成果として,「光学分割」と「不斉合成」の二つの方法を手に入れ,広範に利用してきた.これに対して本研究では,第3の方法として「動的不斉誘起法」[dynamic asymmetric induction: DYASIN(ダイアシン)]と称する新手法を開発することを目的としている.DYASINは動的キラル分子の立体化学を外的キラル因子(outer chiral source: OCS)の影響によって制御しようとするものである.動的キラル分子とOCSの相互作用の大きさはエナンチオマーによって異なるために,熱力学的な偏りが生じて光学活性な動的キラル分子が得られることになる.この過程は分子内の結合回転で進行し,結合の開裂・形成を含まないので不斉合成ではない.本研究ではまず,様々な動的キラル分子(動的面不斉分子,動的らせん不斉分子,動的軸不斉分子,他)のラセミ体にDYASINを施し,光学活性体を得ることに成功した.また,DYASINによって得られた光学活性な動的キラル分子をキラル炭素分子の様な静的キラル分子もしくは準静的キラル分子に立体特異的に変換して多様な不斉合成に展開することに成功した.本研究ではまた,分光学的手法,計算化学的手法に立脚したDYASINの機構研究を実施した.さらに本研究では,DYASINに適した複数の新しい動的キラル分子の設計と合成を達成するとともに,それらの立体化学挙動の解析を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)DYASINの検討:動的らせん不斉を有するラクトンのDYASINについて精査し,外的キラル因子(OCS)としてセルロース系ポリマーを作用させると(P)体が高い光学純度で定量的に得られることを見出すとともに,安定な軸不斉を有するビナフチル分子に立体特異的に誘導することにも成功した.さらに,動的軸不斉を有するカルボン酸誘導体のDYASINについて検討し,OCSとしてセルロース系ポリマーを作用させると光学活性体が定量的に得られることを,またそのキラル炭素分子への変換が立体特異的に進行することを明らかにした.現在,光学純度の向上を目指して更なる検討を続けている. 2)動的キラル分子の設計と合成,並びに立体化学挙動の解析:新しい動的キラル分子として,動的面不斉を有する9員環のoxa-[7]orthocyclophene, aza-[7]orthocyclophyne,10員環のジアリル含窒素中員環分子の合成に成功した.またそれらの立体化学挙動をNMR分析,もしくは,ラセミ化の速度測定から解析した. 3)動的キラル分子の立体化学挙動解析法の開発:動的キラル分子のラセミ化を高温,短時間で分析することができる「マイクロフロー分析法」の開発に成功し,それを用いて,種々の動的キラル分子の立体化学挙動の情報を容易にかつ高精度に得ることに成功した. 4)DYASINの原理解明:動的キラル分子とOCSとの相互作用を分子動力学計算およびQM法(ab initio/DFT 法)を用いて解析し,エナンチオマー間の相互作用の違いについての重要知見を得た.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,下記の4項目について相互に関連付けながら検討を進めていくことを計画している. 1)新規動的キラル分子の設計,合成とそのDYASIN:本研究ではこれまでに動的面不斉ヘテロ中員環分子,動的らせん不斉ラクトン,および,動的軸不斉を有するカルボン酸誘導体のDYASINに成功している.これらの知見を生かして,今後はより多様な動的キラル分子を設計,合成してそれらのDYASINを実施する.特に,動的軸不斉を有するカルボン酸誘導体については置換基効果の精査を含む系統的研究を行うとともに,キラルアミノ酸の不斉合成素子として有用な動的軸不斉分子,アキラルアルカロイドの不斉合成素子として有用な動的軸不斉分子を開発する.また,キラルケイ素分子のDYASINを検討する. 2) 外的キラル因子(OCS)の多様性拡大:本研究ではこれまで外的キラル因子として多糖誘導体ポリマーが有効であることを明らかにしている.今後はより多様な天然・非天然キラルポリマー,特に天然由来のキラル巨大ポリマーについて検討するとともに動的キラル分子との適合傾向を系統的に解析する計画である. 3) DYASINの効率化と実用化:連続的・効率的なDYASIN法としてフロー系DYASINを開発する. 4) DYASINの解析とキラル分子の立体化学制御の学理探求:計算化学的手法,実験的手法に立脚したDYASINの機構研究を実施する.計算化学的手法に関してはQM法(ab initio/DFT 法)およびElongation法による緻密な機構解析を実施する.また,より巨視的な手法として分子動力学計算による機構解析を実施する.実験的手法に関しては分光学的解析,速度論的解析を実施する.
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A-: 研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる
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