研究課題/領域番号 |
20H05685
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分G
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河西 春郎 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任教授 (60224375)
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研究分担者 |
柳下 祥 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (50721940)
UCAR HASAN 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (50748423)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
195,910千円 (直接経費: 150,700千円、間接経費: 45,210千円)
2024年度: 44,720千円 (直接経費: 34,400千円、間接経費: 10,320千円)
2023年度: 44,720千円 (直接経費: 34,400千円、間接経費: 10,320千円)
2022年度: 44,720千円 (直接経費: 34,400千円、間接経費: 10,320千円)
2021年度: 29,510千円 (直接経費: 22,700千円、間接経費: 6,810千円)
2020年度: 32,240千円 (直接経費: 24,800千円、間接経費: 7,440千円)
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キーワード | シナプス / 学習 / メカノバイオロジー / 精神疾患 / 樹状突起スパイン / スパインシナプス / 学習・記憶 / シナプス化学遺伝学 / 記憶 / 作業記憶 / アクチン繊維 / 学習記憶 / 情動 / 知能 / スパイン / 神経回路 |
研究開始時の研究の概要 |
2000 年代に入り急速に発展した大脳シナプス形態可塑性の究明は、透過性に優れた2光子顕微鏡技術による高解像度の組織観察が背景にある。申請者らは独自に開発した2光子アンケイジング法を2光子顕微鏡観察と組み合わせ、大脳興奮性シナプスの後部にある直径1um ほどの樹状突起棘(スパイン)の微細形態変化を観測し、スパイン形態そのものに可塑性があり個体学習と関係することを証明してきた。本計画では、この研究をシナプス前部の終末にも拡張し、スパインに接続するシナプス前終末に対するスパイン増大の力学作用を明らかにするシナプスメカノバイオロジーを建設する。
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研究実績の概要 |
1)圧効果の短期相については、放出可能小胞の数(N)が変わらず、放出確率が上がっている。一方、SNARE複合体は増えるので、圧効果の際には小胞当たりのSNARE数が増加することで放出確率が上がることが想定されている。この際、放出確率(Pr)がある程度高い場合には圧効果が出ないことに気が付かれていた。この定量化のために、刺激を光遺伝学にしてiGluSnFRが隣の終末から漏れないこと、量子解析と2項分布を使って小胞当たりの放出確率Pvを求めること、圧効果のために、シナプス後部スパインを化学遺伝学的に増大させるSYNCit-K法を運用することを始めている。 2)持続相については、小胞の分散はりん酸化カスケードで起きるらしいことがわかってきた。一方、頻回刺激で見た機能的な動員の促進に対して、小胞分散の阻害剤をテストすることで、小胞動員と小胞分散の因果関係を取る実験構想に至った。 3)長年改良を続けてきたシナプス標識法について、そのほぼ全長の修正やin vitro, in vivoアッセイを行った。その結果、高い特異性が得られていること、その特異性の機序、スパイン標識だけでなく細胞体標識も得られるという新しい展望に至っている。 4)スパインを増大させる化学遺伝学的プローブ(SYNCit-K)については、全脳あるいはmPFCで使った場合には睡眠要求を高め、睡眠を誘発することが、睡眠研究者との共同研究でわかってきた(改訂中)。 5)活動依存的スパイン増大を止めるSYNCit-Cプローブを運動野に発現させると運動学習の障害が起き、全脳に発現させると自動能や感覚応答がなくなり、覚醒が障害されると考えられる。これはスパイン頭部増大が覚醒に必要であることを示唆しており、脳波や関与する脳部位をより精密に調べるとともに、全脳の状態を今回のシナプス標識法によっても確認するのが有効と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度に到達した新しい予想について肯定的な実験結果を積み重ねてきた。実験の難易度が高く、より確からしい証明のために新しい実験を組む必要が出たものも多い。大脳の興奮性軸索の終末はシナプス小胞(SV)で詰まっているが、頻回刺激では短期抑圧しやすいことが知られていた。これは不思議なことであるが、これが、圧効果によって解除されることが、覚醒状態を作っていく可能性が示唆された。シナプス力学やシナプス標識法の開発が脳の覚醒過程について実験的な手がかりを与える可能性が出てきたのは当初予想し得なかった驚くべき進展と考えざるを得ない。そしてシナプス化学遺伝学という新しい手法が拓かれたのは意外性のある大きな成果と言ってよいのでないか(論文投稿中)。シナプス圧効果の即時相の研究は一見地味に見えるが、定量化の精度が上がると神経伝達物質放出機構について根本的な知見となるだけでなく、短期記憶(作業記憶)の機構としての役割が見えてくる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績に述べたような方法で着実に理解を深めていく。論文を出すには、一つ一つの実験の難度や量が多いので、実際沢山速く出すことは難しいが、できるだけ速く論文化し、世界の人にこれらの新しい知識や技術を使ってもらえるように進めていきたい。改良シナプス標識法やSYNCitプローブも改良を進めながら、in vivoで使用を進めていく段階に入った。シナプス前部の圧現象もシグナルがわかってきたので、化学遺伝学的に介入する方法を考えたい。これにより、真に力学伝達の重要性が検証されることになる。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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