研究課題/領域番号 |
20H05698
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分I
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高倉 伸幸 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80291954)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
196,690千円 (直接経費: 151,300千円、間接経費: 45,390千円)
2024年度: 38,610千円 (直接経費: 29,700千円、間接経費: 8,910千円)
2023年度: 38,610千円 (直接経費: 29,700千円、間接経費: 8,910千円)
2022年度: 38,610千円 (直接経費: 29,700千円、間接経費: 8,910千円)
2021年度: 38,610千円 (直接経費: 29,700千円、間接経費: 8,910千円)
2020年度: 42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
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キーワード | 血管新生 / 腫瘍 / 血管形成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、血管とがん細胞との相互作用を、血管形成によりもたらされる腫瘍微小環境から解明していく研究である。血管形成単独、がん細胞の悪性化を単独のイベントとして解析する研究は国内外でも行われているが、我々は、血管形成の詳細な分子機序の解明を切り口にして、がん細胞の悪性化進展を解析する。がん細胞と血管系細胞との相互作用を分断させることで、がんの悪性化を抑制するような新しい治療法の開発に資する研究を計画している。
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研究実績の概要 |
腫瘍内に形成される新規血管の発生プログラムの解析のため、発芽型の血管新生以外のプロセスとして、既存血管がそのままの3次元構造を維持したまま進展をして、伸長する「進展型」の血管新生の機序の解析を行なった。これまでの解析において、担がんマウスへの血管新生阻害剤の投与により血管の退縮が誘導されたのちに、速やかに腫瘍内に残存した血管が運動して伸長していく過程で、このような伸長する血管の血管内皮細胞の周辺に好中球が顕著に集合していることが確認された。そしてこの好中球の特徴は、従来に観察されていないような、分泌型糖タンパクであるLxa(仮名)を過剰に分泌する新しい好中球分画であることが判明した。このLxaについて昨年度までに遺伝子欠損マウスの作成を終え、機能解析を実施してきたが、血管内皮細胞の運動性に関わることが示唆されてきているが、Lxaが進展型血管新生に有意に関連するといえるまでの結果は得られていない。ただし、好中球が蓄積してくるということが進展型血管新生の一要因となっていることは好中球の除去実験からも強く示唆された。また、進展型血管新生にも関わると考えられる我々が発見した血管内皮幹細胞について、新たに細胞表面マーカーを発見したことから、このマーカー遺伝子の制御下に蛍光蛋白を発現するレポーターマウスの作成に着手した。さらに、我々は、抗がん剤投与時に、血管内皮細胞から分泌され、鉄イオンの取り込みに関わる分子を発見したが、この因子ががん細胞の抗がん剤抵抗性に関連することを発見し、本分子の阻害による抗がん剤耐性のメカニズムの一端を明らかにした。また血管ニッチ因子として、血管内皮細胞から分泌されるapelinとがん細胞に発現するAPJの解析を行い、このリガンド・受容体ペアが上皮間葉転換に関わることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体発生において血管形成に必須の役割を持つvascular endothelial growth factorとその受容体の制御のみでは抗腫瘍効果は限定的であることが臨床的に報告されてきた。つまり、既存の血管から血管が発芽して腫瘍領域の組織に血管網が構築されるいわゆる発芽的血管新生のメカニズムだけを制御しても血管新生は完全には抑制されないことを示唆している。我々は、腫瘍血管形成の分子機構の原理を解明し、その機序に立脚した、新しい腫瘍環境の整備法を見いだすための概念を創出することを本研究の目的として研究を遂行してきている。研究開始前に発見してきた、既存の血管が進展して伸びていく現象を「進展型の血管形成」と名付け、このメカニズムに焦点を当てて、この血管形成に関わることが示唆されてきた好中球の役割と、血管が進展していく過程で過剰に増殖する血管内皮細胞を血管内皮幹細胞から分化してきた細胞であると仮定して、研究を行ってきている。好中球に関しては、この細胞から分泌される可溶性因子であるLxaに着目した検討により、仮説通りこれが血管の進展性と関わることが判明しつつある。ただし、遺伝子欠損マウスの解析から本分子のみでは進展型血管新生が抑制できないということも判明してきた。また、ヒトの血管に着目して血管内皮幹細胞特異的遺伝子を探索して、2つの注目すべき遺伝子に焦点をあててきており、一方に関してはモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマまで作成が終了している。さらに、いわゆる血管ニッチ領域でのがんの悪性化メカニズムの解明を行い、ここに関わる血管ニッチ因子が同定されてきており、一方は遺伝子改変により、がんの悪性化が抑制されて、今後のがん治療のパラダイムを変えうる解析結果が得られてきている。以上により、本研究は滞りなく進捗してきていると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
好中球が蓄積してくるということが進展型血管新生の一要因となっていることは好中球のablation実験からも強く示唆され、本年度は進展型血管新生の際に好中球が血管内皮細胞の周囲に集合するためのケモカインを探索する。これまでの遺伝子解析の結果関連性が示唆されるIL17を中心に解析を進め、新たなケモカインの候補についても解析を進める。また、血管新生に大いに関わることが判明した、血管内皮幹細胞について、新たに見出した幹細胞マーカーを指標として、血管新生に本分子が陽性の血管内皮(幹)細胞がどのように関連するのかを解析し、本分子の機能解析を試みていく。さらに、血管内皮幹細胞によって誘導される血管新生を明確に定義することで、新たな「血管生物学」におけるパラダイムの創出を行う。すでに、研究業績は論文化しているが、本年度は本研究費の最終年度となるため、できる限り成果の論文化、知財化を進める。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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