研究実績の概要 |
本年度前半では,命令文と義務モーダルの意味論に関わる研究を推し進めた。 (1) 「にしろ」「であれ」「にせよ」とUnconditionals: 「にしろ」「であれ」「にせよ」のように「コピュラ+軽動詞+命令形態素」を持つ文は,命令文としてだけでなく,ある特定の条件文の前件(具体的には, unconditionalsと呼ばれる条件文の前件)として機能し得るが,どのような仕組みでこれらの表現が命令文と条件文の意味を導出するかは明らかとなっていなかった。この研究では,「日本語における命令形態素はそれ自体で命令の意味を持つ訳ではなく,いわゆるsubjunctive moodを持つ代替集合を作る演算子である」ということを主張し,代替意味論の枠組みにより統一的な説明を与えた。 (2) 日本語の義務モーダル「方がいい」に関する形式的研究: 共同研究として,日本語の義務モーダル「方がいい」の意味論の研究を行なった。「方がいい」は,いわゆる「義務 」のモダリティを表す点で命令文と共通している。本研究では,「方がいい」の「義務」の意味は,英語のshouldやmayのように一つの語彙としてその意味が登録されている訳ではなく,「方」・「が」・「いい」という三つの要素それぞれの意味から構成的に導出されるというアプローチを採用し,同時にこのアプローチの経験的な意義を主張した。本研究は,単に「方がいい」に関わる個別現象を説明しただけに留まらず,自然言語におけるモーダル表現の「意味的普遍」が何であるかという根源的な問いに対し,日本語のデータから一石を投じた点において,当該の研究領域に貢献した。 本成果はJapanese/Korean Linguistic Conference 28にて報告を行った。
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