研究実績の概要 |
本研究は,知見の乏しいイルカの腸内細菌叢を明らかにするため,飼育下イルカの健康や生存に大きく寄与している腸内主要細菌群の特定及び性状解析からその有用性を明らかにすることを目的とした. 今年度は,バンドウイルカの腸内細菌叢組成の季節変動の有無を明らかにすること,ならびに主要細菌群の特定を目的とした.1年間にわたり,毎月1回,飼育下バンドウイルカから採取した糞便を用いて細菌叢解析を行った.その結果,細菌叢の多様性に関して,飼育年数とEvenness指数(細菌叢の均衡度を示す指数)間のみで有意な負の相関が見られたことから,飼育下バンドウイルカの細菌叢の多様性は,長期飼育により低下することが明らかとなった.また,細菌叢組成は個体ごとに特有であった.1年間を通して検出され,かつ全個体で共通して見られた細菌属を主要細菌としたところ,Clostridium sensu stricto 1, Cetobacterium, Paeniclostridium, Photobacterium, Fusobacterium, Unclassified genus in Lactobacillaceaeの計6属が主要細菌であることが判明した.次に,バンドウイルカの腸内主要細菌の中でもCetobacterium細菌に着目した.計13株のC. cetiの分離に成功し,微生物定量法とゲノム解析からビタミンB12産生能を評価したところ,3株ともビタミンB12を産生することがわかり(濃度平均 ± 標準偏差:11 ± 2 pg/mL),さらに,アデノシルコバラミン産生に関わる代謝経路を有していた.ビタミンB12はヘモグロビンの生合成において重要な物質であることから,C. cetiは長く深い潜水のため大量の血液を必要とするイルカへのビタミンB12産生供給源として重要であると考えられた.
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