研究課題
特別研究員奨励費
フラストレート磁性体に磁場を印加すると、磁化プラトー相やスピン多極子秩序相などの多彩な磁気相を発現し得る。四面体が大小交互に配列したブリージングパイロクロア反強磁性体は近年注目されている系であるが、その磁化過程の研究はあまりなされていない。我々はブリージングパイロクロア反強磁性体における新奇磁気相探索を目的に、数種類の該当物質に対して100テスラ以上の超強磁場下で磁化・磁歪測定などによる実験的研究を進める。また、これらの系で重要なスピン-格子結合を取り入れたモデルによる詳細な理論的研究も並行して行い、実験と比較して格子のブリージングやスピン-格子結合が及ぼす効果を各物質に対して評価する。
近年、ブリージングパイロクロア格子磁性体のモデル物質として新たにクロムスピネル硫化物AA'Cr4S8 (AとA'はそれぞれ1価と3価の非磁性イオン) への注目が集まっている。そこで、これまでいくつかの物性報告が行われてきたCuInCr4S8に加えて、新たにCuAlCr4S8とCuGaCr4S8の粉末試料を固相反応法により合成し、強磁場中での物性探索を遂行した。CuInCr4S8に対しては、すでに150 Tまでの磁化測定により酸化物と同様に1/2磁化プラトー相を発現することを見出していた。そこで、さらに60 Tまでのパルス強磁場下で磁化、磁歪、誘電率、磁気熱量効果測定を詳細に行い、温度-磁場相図を作成した。その結果、有限の閉じた温度-磁場領域において磁気スキルミオン相の発現を彷彿とさせる特徴的な磁気相が存在することを初めて見出した。新物質CuGaCr4S8とCuAlCr4S8に対しては、130 Tまでの強磁場下で磁化、磁歪測定を行い、同様に温度-磁場相図を作成した。これら3物質は磁気モデルが類似していることが予想されるが、示す温度-磁場相図は三者三様であることが明らかになった。CuInCr4S8については化学輸送法による単結晶育成も試み、合成自体は可能であるものの、磁気転移温度が合成条件に非常に敏感であることが明らかになった。試料の質はさらなる改善の余地がある。並行して、ブリージングパイロクロア格子反強磁性体におけるスピン-格子結合理論の構築を理論家と共同で進め、様々な磁気相互作用パラメータに対する温度-磁場相図を完成させた。同様のモデルのカゴメ格子系への拡張も行い、ゼロ磁場ネマティック秩序状態や1/9磁化プラトーといったスピン-格子結合がもたらす新規磁気物性を明らかにした。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: -
Physical Review B
巻: 105 号: 18
10.1103/physrevb.105.l180405
巻: 104 号: 18 ページ: 184411-184411
10.1103/physrevb.104.184411