研究課題
特別研究員奨励費
血液中の血小板は造血幹細胞と呼ばれる細胞から分化して形成される。その際にトロンボポエチン(TPO)というサイトカインにより分化が促進される。本研究では、海洋生物抽出物を対象に“ヒト血液細胞の分化に関わる新しい化合物”のスクリーニングを行ったところ、TPOに似た活性を持ついくつかのサンプルが得られた。これらについて活性本体の分離精製を進めたところ、新規タンパク質であるトロンボコルチシン(ThC)を見出した。これまでの結果からThCはTPOとは異なる機序で作用している可能性が強く示唆されており、ThCによる新しい作用機序の解明を目指す。
昨年度の結果から、ThCはTPO受容体上のN117上の糖鎖に結合し受容体の活性化を引き起こしていることが明らかとなった。そこで、ThCのX線結晶構造解析を行い立体構造を調べたところ、ThCは上下反転した状態で2量体として存在し、対角線上に2カ所の糖結合部位を持つことが明らかとなった。この結果より、ThCの2カ所の糖結合部位によって2分子の受容体が架橋され活性化を導くと考えられ、これまでの仮説をさらに支持するものとなった。次に、血液疾患の原因とされているCALR変異体とThCにおけるTPO受容体に対する作用を比較した。CALR変異体も受容体N117上の糖鎖に結合し活性化していることが示唆されており、その作用機序は類似している。最近の研究から、CALR変異体によるTPO受容体の活性化は、TPOによるものと異なった特徴を持つことが報告されている。通常、TPO受容体はTPOが作用すると、受容体が活性化し細胞内にシグナルを伝達した後、速やかに細胞内に取り込まれる。これはTPO量の調節や過剰なシグナリングを防ぐために重要な機構である。一方でCALR変異体による活性化時には、細胞内へ取り込まれず、シグナル伝達が長時間持続することが示されている。そのため、細胞の増殖や分化に異常をきたすと考えられている。そこで類似した機構を持つThCでの受容体の取り込み、シグナル持続時間を調べた。その結果、ThCにおいてもCALR変異体と同様の結果が得られた。これは “TPO受容体の糖鎖を介した活性化” における共通点であると考えられる。本研究では海綿由来タンパク質ThCがヒトTPO受容体の新しい活性化機構の存在を立証した。今後、CALR変異体とより詳しく比較することで、疾患に関する新たな知見やTPO受容体N117糖鎖の生理的な役割に迫るきっかけへと繋がるかもしれない。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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bioRixiv
巻: -
10.1101/2021.10.29.466502