研究課題
特別研究員奨励費
強相関電子系では、伝導電子の有効質量増大により、従来の格子ゆらぎを媒介にした超伝導よりも、その他のゆらぎを媒介とした非従来型超伝導が有利と考えられている。本研究は、核磁気共鳴法を用いて以下の二つの実験を行い、磁気ゆらぎの性質と非従来型超伝導との関係をより詳細に解明する事を目的とする。①重い電子系物質で構成された人工超格子について、構成物質を変化させることにより、反強磁性ゆらぎの次元性を制御し、磁気状態、超伝導性との関係を調べる。②スピン三重項超伝導の実現が期待されているUTe2について、微視的測定からその超伝導対称性を決定し、超伝導発現機構の解明を目指す。
本研究の目的は、磁気ゆらぎの性質と非従来型超伝導との関係をより詳細に解明する事である。そのために核磁気共鳴(NMR)を用いて二つの実験①重い電子系人工超格子のゆらぎの次元性の解明 ②スピン三重項超伝導候補物質UTe2の超伝導対称性の決定 を計画していた。当該年度は主に②に注力して実験を行った。まず単結晶UTe2において、b軸方向磁場下でNMRナイトシフトの測定を行い、超伝導状態でスピン磁化率が減少するものの、その減少量がスピン一重項で予想されるものより小さい事を明らかにした。また、核スピン-格子緩和率の温度依存性を測定し、従来型の超伝導で期待されるコヒーレンスピークが出現しない事を確認した。これらの結果はUTe2がスピン三重項超伝導体である事を示唆するものである。次に、NMR信号強度を増強させるためNMRアクティブな125Te核の濃度を99.9%まで高めた単結晶UTe2を用いて、より詳細なNMRナイトシフトの測定を行った。その結果、b軸方向に加え、c軸方向でもスピン磁化率が減少する事がわかった。興味深い事に、このスピン磁化率減少の磁場依存性はb, c軸方向で異方的であり、超伝導高磁場領域ではb, c軸方向ともに超伝導状態であるにも関わらず、スピン磁化率が減少しない領域がある事がわかった。本測定で得られたスピン磁化率の磁場依存性は超伝導対称性の候補を大きく絞るものであり、特に高磁場でのスピン磁化率が減少しない超伝導状態は、超伝導中でもスピン自由度が生き残っている事を示し、スピン三重項超伝導を強く示唆する。今後a軸方向のナイトシフト測定により対称性の完全決定を目指す。加えて、NMRスペクトルの測定より、超伝導体中でスピン磁化率が特徴的な分布を示すことがわかった。この分布はスピン自由度に関連したスピン三重項超伝導特有の現象である事が期待される。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Physical Review B
巻: 103 号: 10 ページ: 100503-4
10.1103/physrevb.103.l100503
Journal of the Physical Society of Japan
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