研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、虚血および炎症などによる損傷が未完成な脳梗塞急性期に、発生学的に神経堤由来であり、しかも幹細胞が多い歯髄から誘導した神経系細胞を脳梗塞周囲へ直接移植する事で、神経保護のみならず、神経細胞への分化、生着による神経組織の再生を得て、後遺症の軽減を図ることを目的とする。ただし、細胞が移植される脳梗塞部周囲は低酸素・低栄養で移植細胞の生着に非寛容的な生体環境となっている為、移植に適した酸素要求性の低い、あるいは血管新生能の高い未成熟な神経系細胞を安定的に確保する方法を開発し、移植実験を行う。
歯髄組織から神経系細胞を分化誘導して脳梗塞周囲に移植する再生医療の研究をおこなった。成熟した神経系細胞は神経突起の本数が多く、長く、移植後に酸素や血流が豊富に必要となる。一方で突起の本数が少なく、短い、未成熟な神経系細胞は、成熟しているものに比べて酸素需要が低く、虚血環境への移植に適していると考えた。しかし、未成熟神経系細胞は、通常の培養条件下では速やかに成熟してしまうため、安定的に移植に必要十分な細胞数を確保することが困難であった。その為、本研究では、未成熟な神経細胞に発現しているEカドヘリンを抗体のFab部分に組み込んだカドヘリンキメラ抗体を用いる事で、細胞の成熟度の調整をはかった。歯髄組織からの細胞培養の各段階で、Eカドヘリンキメラ抗体でコートした培養皿を用いた。種々の条件を検討したが、結果として、当研究室で従来行われていた培養方法の最終段階でEカドヘリンキメラ抗体でコートした培養皿を用いる事で、成熟度を抑えた細胞を得ることができた。フローサイトメトリーを用い、Eカドヘリンキメラ抗体でコートした培養皿使用の有無による、細胞プロファイルの違いも合わせて評価した。得られた細胞は突起の本数が短く、少なく、また、培養上清のELISAの結果、血管新生因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)の分泌が高かった。その為、脳梗塞巣周囲という、移植細胞の生着に非寛容的な低酸素・高酸化ストレス環境に耐え、より生着に適した細胞が得られた。今回得られた細胞を脳梗塞に対する再生医療に用いる事で、移植後早期にホストからの栄養・酸素供給が得られ、その結果、神経細胞への分化、生着による神経血管ユニットの再生を得て、後遺症の軽減を図れる可能性があると考え、今後、脳梗塞モデルマウスへの移植実験をおこなって検証する必要がある。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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