研究課題/領域番号 |
20J13006
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧口 耕介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
|
配分額 *注記 |
2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
2021年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2020年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
|
キーワード | 強磁性半導体 / 半導体スピントロニクス / ペロブスカイト酸化物 / ワイル半金属 |
研究開始時の研究の概要 |
現代の情報化社会は電子の電荷に着目することで目覚ましい速度で発展してきたが、その物理的な限界が近づきつつある。そこで新しい材料系の探索と、その応用は喫緊の課題である。本研究では、電子デバイスに一般に用いられている半導体に、電子のもう一つの自由度であるスピンを導入することで、まったく新しい電子デバイスを探索することを目指す。半導体に磁性材料を添加した強磁性半導体と非磁性半導体との組み合わせを用いたデバイスは、強磁性体の長所である不揮発性と半導体の長所である高速動作の両方を有する点で非常に有望である。実験として、この非磁性半導体と強磁性半導体の接合系における電気伝導現象とその応用を開拓する。
|
研究実績の概要 |
2020年度は主に2点の研究成果を挙げた。 1点目は非磁性半導体InAs/強磁性半導体(Ga,Fe)Sbの新規奇パリティ磁気抵抗効果の発見である。時間反転対称性を保った物質の抵抗の磁場に対する応答は、偶であることが示されている。一方で時間反転対称性が破れる場合にはその限りではなく、磁場に対して奇関数として振る舞う抵抗成分が観測されうる。奇パリティ磁気抵抗効果はその効果を一般に表した用語だが、これまでの観測例では2%以下の抵抗変化しかなく応用などは考えられなかった。InAs/(Ga,Fe)Sbの新規奇パリティ磁気抵抗効果では13.5%という巨大な抵抗変化が観測された。またこの磁気抵抗効果はゲート変調可能で、その結果から磁気近接効果による時間反転対称性の破れと、一次元伝導による空間反転対称性の破れが大きな抵抗変化の原因であることがわかった。 2点目は強磁性ペロブスカイト酸化物SrRuO3におけるワイルフェルミオンの実験的観測の成功である。ワイルフェルミオンとは線形分散関係がその材料の対称性の破れに伴い縮退を解くことで現れる幾何学的に特異な電子状態に存在する粒子である。このような電子状態は高速な電気伝導やロバストな信号伝達などに役立つと考えられている。SrRuO3は強磁性であり、その磁化により時間反転対称性をやぶるとともにワイルフェルミオンの存在が実験的にも理論的にも示唆されてきた。一方で結晶の質を十分にしないとこの本質的な現象が観測されないことが問題だった。本研究では機械学習を援用した分子線エピタキシー法を用いることで世界最高品質の結晶作製に成功するとともにワイルフェルミオンを示す磁気伝導現象をすべて観測することに成功した。この結果は酸化物材料で初であり、今後の酸化物エレクトロニクスにおけるトポロジカル物質の重要性を示すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新規奇パリティ磁気抵抗効果の発見は予想外であるとともに非常に重要な結果が得られたと考えている。強磁性半導体を有した接合系における磁気伝導現象はその電子状態の特殊さから、いまだに未開拓で予想できないことが多く起こる。強磁性半導体は次世代のスピントロニクスを担う重要な材料群であるとともに、その電気伝導の性質は今後の半導体スピントロニクスに重要な情報である。特に今回用いたInAs/(Ga,Fe)Sbは磁気近接効果を用いることでキャリアースピン間相互作用を失わず、かつ移動度を損なうことなく伝導を生じさせることが可能となる。(これは申請者の先行研究で示されている。)したがってこの系は今後の半導体スピントロニクスで重要な位置を示すものであり、今回の実験はその電気伝導に関する新しい知見を示したと言える。したがってこの研究テーマは当初の計画以上に進展していると言える。 また、酸化物の電気伝導に関する研究も重要な成果を得たと言える。SrRuO3は半世紀以上の歴史を持つ材料である一方、その結晶成長の困難さから本質的な現象を解析することが難しいとされてきた。今回の我々の結果はそのような状況を根本的に解決したものである。また今回観測に成功した磁性体中でのワイルフェルミオンは今後量子計算や、次世代スピントロニクスデバイスへの使用が期待されるなど近年特に精力的に研究が世界中で行われている。磁性ワイル半金属はいまだに数種類しか確認されておらず、今回の結果はそのような状況でおおきな成果であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はInAs/(Ga,Fe)Sbコアシェルナノワイヤー作製を目指す。一次元伝導は奇パリティ磁気抵抗効果で見られたように、その電気伝導に大きな影響を及ぼす。具体的には次元性を下げることによって空間反転対称性の破れが大きくなり、ラシュバスピン軌道相互作用として大きなスピン分裂が期待される。このような環境で、磁気近接効果を導入した場合には更にスピン分裂が顕在化されるので温度耐性のよいスピンデバイス作製に近づくと言える。また、ナノワイヤートランジスタはその系の特性からゲート変調も二次元型のデバイスに比べて大きくなる。以前の申請者の研究で明らかになったように、InAs/(Ga,Fe)Sbにおける磁気近接効果はゲートによって大きく変調されるので改善されたゲート特性によりスピン分裂も大きくなることが期待される。この結果、近年申請者が発見した磁気近接効果によって現れる磁気抵抗効果(近接磁気抵抗効果)の抵抗変化も大きくなることが予想される。このような特性は次世代のスピントロニクスを構成する要素として不可欠であり、これが達成されれば有望な新規デバイスとして革新的なものである。 具体的には、InAsをコアとして、磁性半導体である(Ga,Fe)Sbをシェルとした構造(コアシェルナノワイヤー)とする。この構造では、二次元デバイスでの問題であったInAsの低温成長による移動度の低下が起こらなくなる。移動度の上昇は電子デバイスとしてはもちろん、スピン分裂にも影響するため重要なパラメータとなる。コアであるInAsと(Ga,Fe)Sbはよいエピタキシャル関係を保っているので、磁性をゆうしたまま結晶成長が可能となる。結晶成長が最適化された後、絶縁基板上にナノワイヤをトランスファーする。電極を設けたのちゲート絶縁膜、電極を設けナノワイヤトランジスタとする。測定としてゲート印加によって磁気伝導の変化を観測する。
|