研究課題
特別研究員奨励費
様々な原理で動作する量子ビットに共通して言えることは、量子状態の検出手法・感度の向上が必須という点である。例えばNVセンターでは光による検出を行っているが応用を考える上では電気的な検出手法が好ましい。熱や光、振動を電気信号に変換することはスピントロニクスの最も得意とする分野の一つである。また、半導体量子ビットでは検出感度向上のために既製品の低ノイズアンプやジョセフソン接合を用いたパラメトリックアンプ等が用いられている。一方、近年スピントロニクスデバイスによる増幅素子も実証されている。これらに対しスピントロニクスデバイスや原理に基づく新たな解の選択肢を提供する。
磁気トンネル接合(MTJ)の非線形輸送特性について詳細に調べた。非線形性の原因の一つとして知られる非弾性トンネル効果については、磁性体由来の寄与も数多く報告されており、分光学的観点から精力的に研究が行われてきた。一方で非線形なIV特性を低バイアス領域付近で級数展開的に解析しその係数である非線形コンダクタンスに特徴づけることで定量的評価を行った実験的報告はごく僅かである。そこで直径15~100nmの垂直容易軸を有するMTJにおいて非線形コンダクタンスの観点から非線形輸送特性の評価を行った。2次の非線形コンダクタンスG2については、素子直径Dの減少に従い増大する傾向が観測された。この傾向は、MTJ素子のエッジ部におけるバンド構造の非対称性を考慮することで説明することができた。こうしたエッジ部における非対称性の起源としては微細加工プロセスの影響が考えられ、別途測定した強磁性共鳴の結果からも同じ結論が得られた。また、3次の非線形コンダクタンスG3については、G3とG1の間に非自明な負の相関関係が観測され、これはスピンフリップを考慮したトンネルコンダクタンスモデルを仮定することで定性的に説明することができた。こうしたスピンフリップの要因としてはマグノンの生成・消滅が考えられ、この描像は従来研究されてきた分光学的観点からの考察と一致する。またG3とG2の間には正の相関が見られ、マグノンの影響に加えて微細加工プロセスの影響がG3にも寄与している可能性が示唆された。以上、外因的寄与として微細加工プロセス、内因的寄与としてマグノン生成・消滅がTMR比低下の要因となる非線形輸送特性を生じさせることを明らかにした。また、こうした非線形コンダクタンスの振る舞いを明らかにしたことで、スピン依存伝導が顕著な系における非平衡物理研究への展開も期待される。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Applied Physics Express
巻: 14 号: 3 ページ: 035002-035002
10.35848/1882-0786/abe41f
Applied Physics Letters
巻: 117 号: 20 ページ: 202404-202404
10.1063/5.0020591