研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、宇宙が誕生して間もない時期に起こった元素合成過程(Big Bang Nucleosynthesis: BBN)において、生成された軽い同位体元素の存在量に対する理論予想値と実際の観測値を比較した際、リチウム7に関してのみ、理論予想値が観測値より約3倍も大きく見積もられているという「宇宙リチウム問題」の解明に原子核物理学の観点から挑戦する。リチウム7の主な生成源はベリリウム7であると考えられている。その分解反応である7Be+n→7Li+p反応率を実験的に導出し、現在のBBNモデル計算をアップデートさせることで、ベリリウム7分解反応が宇宙リチウム問題に与える影響を定量的に見積もる。
本研究では、前年度の研究成果を踏まえて7Li+3He→8Be+d反応の測定実験を行う方針を固めた。実験では反応測定用のフッ化リチウム標的、バックグラウンド差し引き用の炭素標的、テフロン標的、マイラー標的、そして高純度フッ化リチウム6標的を使用する。それらに加えて、焦点面検出器の較正用にマグネシウム標的を購入した。2021年6月に日本原子力開発機構(JAEA)のタンデム加速器施設を用いて、テスト実験を行った。実験の目的として、①弾性散乱事象を用いた標的厚の導出、②焦点面検出器較正用のマグネシウム標的のテスト、③本実験に向けた7Li(3He,d)8Be(p)7Li反応測定のコインシデンス回路調整、等である。我々はこの実験から、①と③の目的を果たすことに成功した。また②に関して、この較正は目的である7Li+3He→8Be+d反応測定において精度良くエネルギースペクトルを決定するために重要である。その上で、目的反応の運動量アクセプタンスと同じ領域に同定可能なピークが焦点面で測定されるか否かは、実際に較正用標的にビームを照射して調べる必要があった。結果、マグネシウム標的では較正に使えるピーク数は少ないことが判明し、これを受けて、次の実験では別のシリコン標的を新たに用意し、再度測定を行う方針に決定した。我々は今回の実験データを解析し、目的の8Beの19.4MeV状態の測定に7Li(3He,d)8Be(p)7Li反応が有望であることを確認、かつ、8Beが7Liの基底状態と第一励起状態に崩壊する時に放出される陽子を分離測定することに成功した。preliminaryな結果として、目的の8Beの19.4MeV状態に関して、前者の崩壊事象の方が確率的に大きいことが分かった。本実験では、高統計・高精度の測定を目指し、定量的に崩壊分岐比を導出することで、本研究課題に決着をつけられると考えている。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Physical Review C
巻: 103 号: 1 ページ: 015801-015801
10.1103/physrevc.103.015801
http://lambda.phys.tohoku.ac.jp/slnb/