研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、標的アイソトープ療法において未だ確立されていないオージェ電子がもたらす治療効果の期待値を正確に調べると共に、オージェ電子の臨床利用を見据えた上でその実用性を評価し、解決すべき課題や今後の研究方針を明確化する。このために、まずDNAに結合する標識白金化合物を用いて、DNAを標的とするオージェ電子の有効性を評価する。そして標的分子や標識化合物を探索することで、短い飛程を有効的に作用させる分子送達・標的方法、細胞内局在について考察する。次に放射線の種類についてβ線やα線との系統的な比較を行うことで、当該療法におけるオージェ電子の有効性を総合的に評価する。
2022年度は,より少ない放射能で効果的に細胞死を引き起こすための戦略として、がん細胞内で増幅している細胞の生存に関与する遺伝子を標的とする分子の利用を検討した。このため、神経芽腫などで増幅されるMYCN遺伝子に結合するPIポリアミド分子(PIP)を選択し、191Pt標識化合物(191Pt-PIP-MYCN)を開発した。本標識化合物は所期のとおり、MYCN遺伝子が増幅している細胞株へ障害性を示し、MYCN遺伝子やその発現に影響を与えた。すなわち、DNAにランダムに結合させるのではなく、がん細胞生存に深く関わる遺伝子にAuger電子を作用させることで、同じ191Pt放射能で効率よく細胞障害を引き起こすことを見出した。最後に、191Pt標識化合物をがん細胞 (PSMA)を標的とするリガンドの191Pt標識化合物を開発し、評価を行った。体内分布を調べた結果、リガンドの特異性は一定レベル保たれていた一方で、191Ptのタンパク質結合率が高く、肝臓/脾臓/腎臓への集積量が 腫瘍よりも数十倍高いことが明らかになった。インビボで機能させるための、化合物の血中安定性に関する知見を獲得した。以上より、研究期間内に191Pt標識化合物の製造技術を構築し、DNAに送達させるための化合物設計やAuger電子のDNA作用に関する指針を得た。DNA結合分子を用いて191Pt標識化合物をDNAに送達させた際に、191Ptが優れたDNA結合性・障害性を発揮する新知見を得たものであり、DNAを標的とするAuger電子治療の発展に貢献すると期待される。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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