研究課題/領域番号 |
20J20761
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川越 聡一郎 (2020, 2022) 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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特別研究員 |
川越 聡一郎 (2021) 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2022年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2021年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2020年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 分子シャペロン / NMR / cryo-EM / 複合体立体構造 / 液-液相分離 / 転写因子 |
研究開始時の研究の概要 |
生体内におけるタンパク質動態の恒常性は、分子シャペロンと呼ばれる一群のタンパク質群により維持されている。これらシャペロンは複合体を形成して協働的に機能するが、シャペロン複合体のような動的で巨大なタンパク質装置の構造を解析する手法論が未構築であるために、その協働機構は解明されていない。本研究では、動的なタンパク質の相互作用解析に優れる溶液NMR法、特に常磁性ランタノイドプローブを用いた常磁性NMR法と、巨大なタンパク質の構造解析が可能なcryo-EM単粒子解析法を用いた、動的な巨大タンパク質複合体の立体構造解析における新たな手法論を構築し、シャペロン複合体の協働機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
生体内におけるタンパク質動態の恒常性は,分子シャペロンにより維持されている.このシャペロンシステムの包括的な理解を目指し,本研究では,1. 分子シャペロン複合体の協働機構の解明と,2. シャペロンの転写レベルを制御する転写因子Heat shock factor-1 (Hsf1) の分子機構解明を目的とした. 1.分子シャペロン複合体の協働機構の解明: ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の分子機構を,複合体の立体構造解析によって明らかにすることを目指し,クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組んだ.構造解析のためのコンストラクト最適化,発現・精製条件を検討し,高純度のシャペロン複合体を調製した.この試料を高エネルギー加速器研究機構所有のクライオ電子顕微鏡での測定に供し,これまでに良好なグリッド作製条件を最適化している. 2.Hsf1の分子機構解明: Hsf1はその液-液相分離によって形成する相分離液滴に他の転写因子を集積させ,転写を促進する一方,Hsf1液滴がゲル状液滴に相転移すると,細胞死が誘導されることが近年報告された.本研究では,Hsf1液滴の相転移メカニズムの解明を目指した.Hsf1液滴をゲル状に相転移させる要因の解明のため,光褪色後蛍光回復法によりHsf1液滴の流動性を評価した結果,酸化的雰囲気下でその流動性は著しく低下し,ゲル状に相転移した.次に,酸化的環境によりHsf1液滴がどのように相転移するのかを明らかにするため,屈折率イメージングとSEC-MALSによりHsf1の会合状態を検討したところ,酸化的条件下では液滴内部にジスルフィド結合により高次に多量体化したHsf1が観測された.これらの結果から,Hsf1は酸化的ストレスをジスルフィド結合形成により検知し,その結果生じるHsf1の高次多量体がゲル状液滴への相転移を駆動すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組んだ.構造解析のためのコンストラクト最適化,発現・精製条件の検討後,高純度のシャペロン複合体を調製し,高エネルギー加速器研究機構所有のクライオ電子顕微鏡での測定に供した.これまでに良好なグリッド作製条件を最適化している.さらに,本年度はシャペロンシステムの包括的理解を目指し,シャペロンの転写レベルを制御する転写因子Heat shock factor-1 (Hsf1) の分子機構解明に取り組んだ.Hsf1液滴が流動性の低いゲル状液滴に相転移すると,シャペロンの転写が抑制され,細胞死が誘導されることが近年報告されたが,Hsf1液滴のゲル状液滴への相転移機構は未解明であった.光褪色後蛍光回復法や屈折率イメージング,SEC-MALSによる分析の結果,Hsf1は酸化的ストレスをジスルフィド結合形成により検知し,その結果生じるHsf1の高次多量体がゲル状液滴への相転移を駆動することを示した. シャペロン複合体の構造決定には現段階では至っておらず,当初の実験計画に比べ,進捗状況が十分ではない面があるが,Hsf1液滴の酸化的相転移のメカニズムを明らかにしたことは評価できる。 以上のような進捗状況から、期待通り研究が進んだと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の,クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組むとともに,シャペロンシステムのさらに広範なメカニズム解明を目指し,タンパク質の細胞膜外輸送を補助するシャペロン複合体の分子機構解明を目指す.タンパク質輸送に関わるこのシャペロン複合体間の相互作用様式を明らかにするため,安定同位体標識した複合体の試料を用い,弱い相互作用の解析に優れる溶液NMR法による測定を実施する.複合体での相対配置の決定に必要な結合界面におけるアミノ酸残基間の距離情報を取得するため,空間的に5Å以内に接近した原子核間の距離情報が得られるNOEを観測する.NOEから得られる距離情報をもとに,構造計算ソフトウェアCYANAを用いて高分解能なシャペロン複合体の立体構造を決定することで,シャペロン複合体の相互作用様式を明らかにする.
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