研究課題/領域番号 |
20J21915
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分28020:ナノ構造物理関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川田 拓弥 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,100千円 (直接経費: 3,100千円)
2022年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2021年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2020年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | 表面弾性波 / スピン流 / スピン軌道相互作用 / スピン回転結合 / 磁気弾性結合 |
研究開始時の研究の概要 |
社会のあらゆる場所に存在する振動や回転と、あらゆる物質の中に存在する電子の自転運動(スピン)を結びつけることで、IoT社会の実現に不可欠な自律給電型デバイスやナノマシンへの応用が期待される。本研究では、その応用の基盤となる機械的運動と電子スピンの結びつきを解明するために、研究代表者が実験的に発見した振動-電子スピン変換現象の原理解明と高効率化を目指した実験を行う。
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研究実績の概要 |
これまでの研究で、非磁性重金属と強磁性金属からなる薄膜ナノ構造に表面弾性波を伝搬させると、特異な磁場応答を示す直流起電力が生じる現象が見出された。初年度の研究では、薄膜ナノ構造を構成する物質という観点から直流起電力を調べ上げた。その結果、重金属層の原子振動からスピン軌道相互作用を介して生成された交流スピン流が、交流歪みによる強磁性層の磁化揺らぎによって整流されることで直流起電力が発生していることが明らかとなった。 昨年度の研究では、この現象について表面弾性波の観点から研究を行った。音速や振動モードといった表面弾性波の伝搬特性は、圧電単結晶基板のどの結晶方位に伝搬するかに強く依存する。そこで、同一の重金属/強磁性薄膜ナノ構造に様々な方向から表面弾性波を伝搬させることによって、発生する直流起電力がどのように変化するかを調べた。その結果、表面弾性波の伝搬方向に応じて外部磁場角度依存性が位相シフトすることが明らかとなった。この結果を受けて直流起電力の生成モデルを再検討した結果、これまで表面弾性波を用いた研究ではあまり考慮されてこなかった面内のせん断歪みを考慮に入れることで外部磁場角度依存性の位相シフトを説明可能であると示された。さらに、圧電単結晶基板の物質定数を用いて表面弾性波の音速および振動モードを数値計算し、直流起電力の生成モデルと合わせて考察した結果、表面弾性波によって発生するスピン流は圧電単結晶基板の電束密度(電気分極)と相関があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
圧電単結晶基板上で表面弾性波を伝搬させる方向を変えることによって表面弾性波誘起起電力の磁場角度依存性が変調されるという結果は、端的に弾性波の振動モードと起電力の相関を示している。拡張された現象論的モデルと数値計算の結果は、この現象に力学的自由度のみならず電気分極も関与していることを示唆しており、スピントロニクスに強誘電性という新しい観点を導入する画期的な成果であると言える。この結果は原理解明に重要な寄与をもたらすのみならず、デバイス設計の自由度を上げるという点で応用上の価値も有していると考えられる。以上の観点から、現時点で研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、人工ナノ構造を利用して表面弾性波起電力の原理解明を進めるとともに弾性波-スピン流-起電力変換効率の増大を目指す。これまでの研究を通して、表面弾性波誘起起電力の物質依存性および弾性波依存性が明らかにされてきた。これらの研究はいわばデバイス全体から見た時の各部品の特性を解明するものであり、今はこれらの知見を基礎として多彩なデバイスの構築とその動作特性の評価を実施できる研究段階に至っていると言える。具体例としては、薄膜ナノ構造を多層化してスピン流-起電力変換箇所を増加させたり、薄膜ナノ構造を表面弾性波共振器内部に設置して表面弾性波と電子スピンの結合を増幅させたりすることが挙げられる。これらの実験を通して弾性波-スピン流-起電力変換効率の増大を図るとともに本研究を応用価値の観点から見つめ直し、デバイス応用の可能性を模索する。
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