研究課題
特別研究員奨励費
超高齢社会を迎えた日本にとって、健康寿命の延長は喫緊の課題である。その抜本的な解決には、加齢性疾病や臓器の機能低下により引き起こされる個体老化の理解が必要不可欠である。近年、DNA 損傷等の様々なストレスを受けてがん抑制遺伝子p53が活性化し、不可逆的な増殖停止を起こした細胞(老化細胞)が、加齢とともに生体内に蓄積し、個体老化の進行に関与していることが明らかとなった。そこで本研究では、老化細胞の誘導機構、除去機構、さらに臓器機能低下と個体老化の関係の解明を目的とする。これらの成果により、老化細胞の蓄積を未然に防ぐことによる新たな老化予防法の分子基盤の構築を目指す。
皮膚創傷治癒において、創傷部位付近においてp16のmRNAの発現が一過的に上昇することが知られている。しかしながら、それが 一細胞におけるp16の発現が上昇したのか、p16陽性細胞の数の増加に起因するものなのかは明らかとなっていなかった。そこで本年度は、老化細胞のマーカー遺伝子であるp16が発現している細胞を一細胞レベルで時期特異的に標識可能なマウスモデルであるp16-tomマウスを用いて、老化細胞と皮膚創傷治癒の関係性を明らかにすることを目的に解析を行った。まず、創傷を与えた直後にラベルした結果、創傷7日後にp16陽性細胞数が増加していることが明らかになった。加えて、時間経過とともにその細胞は除去されることなく残り続けることが明らかになり、これまで治癒後にp16陽性細胞は除去されると考えられていたが、実際には除去されないということが示唆された。また、創傷7日後にp16陽性細胞と陰性細胞に対しシングルセルRNA-seqを行ったところ線維芽細胞由来のp16陽性細胞はコラーゲンの産生が活性化していることが明らかになった。特に、コラーゲン1と3の発現が活性化していた。さらに、ラベルしたp16陽性細胞を薬剤依存的に除去可能なp16-DTR-tomマウスを用いて、創傷後にp16陽性細胞を完治までの2週間除去し続けた結果、治癒にかかる期間が1日遅れた。一方で、傷の残りであるscarは除去した方が小さかった。老化細胞は傷の塞がりを促進するが、塞がった後の完治には悪影響を及ぼすことが示唆された。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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