研究課題
特別研究員奨励費
これまでの乳がん転移研究のほとんどは、MDA-MB-231細胞(TNBC)を用いて行われてきたものであり、MDA-MB-231細胞から得られた転移signature遺伝子を他のサブタイプに適用できないことはすでに示されていた。一方、luminalサブタイプ乳がん患者の骨転移頻度はTNBC患者の2倍以上であるにもかかわらず、その骨転移機構は明らかにされていなかった点に着眼した。本研究はluminalサブタイプにおける新規がん転移バイオマーカーを提唱できると考えている。臨床データベースの利用と転移制御遺伝子の機能解析は、転移標的治療薬の開発に繋がる可能性がある。
昨年度、乳がん骨高転移株MCF7-BM細胞に発癌性転写因子c-Jun発現量の増加とそれに伴うリン酸化c-junの増加を認めた。また、MCF7-BM細胞の破骨型転移は、c-junの過剰発現によって引き起こされる可能性が示唆された。そこで、c-jun経路を抑制が転移能の低下につながるかを検討するため、JNK阻害剤を使ってMCF7-BM細胞に対してc-junの阻害実験を行った。結果として、JNK阻害剤を免疫不全マウスへ投与し、骨転移の頻度及び腫瘍の大きさを評価したところ、MCF7-BM細胞の骨転移巣はJNK阻害剤の投与により縮小し、JNK阻害剤により骨転移が抑制されることが明らかになった。次にc-junの下流で骨転移を制御する分子機構を解析するため、TAM67発現細胞とMCF7-BM細胞の網羅的遺伝子発現解析を行った。MCF7-BM細胞と比較してTAM67発現細胞に特徴的に発現している遺伝子(高発現:1082遺伝子、低発現:1154遺伝子)を抽出できた。また、親株(MCF7-parent)と比較解析して、TAM67発現細胞とMCF7-parent 細胞とで発現の増減が共通する遺伝子を抽出した(高発現:567遺伝子、低発現:353遺伝子)。これらの遺伝子はc-junの下流で転移を制御する遺伝子候補と考えられた。今年度は、これらの候補遺伝子を用いて臨床解析を行った。癌ゲノムアトラスTCGAの乳がんサンプルをc-jun下流遺伝子によってクラスタリングした。その結果、luminal乳がん患者は2つのサブグループに分類されたが、トリプルネガティブとHER2陽性乳がん患者は分類されなかった。また、luminal乳がんの2つのサブグループの生存曲線を解析すると、予後に有意差があることが分かった。以上の結果から、c-junの下流遺伝子はluminal患者の治療マーカーとしての可能性が示唆された。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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